日向徹とコンプレックスと起業の美学

この時代に少しばかばかしいと思って観ていたフジテレビの月9ドラマ「リッチマン、プアウーマン」ですが、あと何回かを残して尻上がりにぼく的視聴率が上がってきてしまいましたあ。うちの家族も喜んで見ているので、この企画は間違いなく成功しているんじゃないですかね。主演の小栗旬のなみだ目と石原ひとみの馬鹿エロっぽさがすべてという話もありますが、やはりこのドラマの根底を流れる起業の美学に注目せずにはいられません。

フジは2005年にも「恋におちたら〜僕の成功の秘密〜」というこれまたバカっぽいタイトルで起業ドラマをやっているんですが、このとき実は中の人から、ITベンチャー企業が舞台ということで、僕に「IT企業らしく見せるためにどうすればいいか?」という相談があったんです。いろいろアドバイスしたんですよ(笑)。ドラマの中で主演の草磲剛がミーティングするシーンがあるんですが、そこで広告戦略として「アフィリエイト」という言葉を使わせたんですよ。2005年に「アフィリエイト」なんて言わせるの僕しかいません(笑)
このドラマの発想はもちろん当時、一世を風靡していた堀江さんが率いるライブドアをベースに
していて、作家の方は、M&Aで会社をどんどん大きくしている堀江さんを見て、会社の中では、様々な衝突が起きているんだろうなと想像して描いたんでしょうね。なので、起業ストーリーというよりは、「冷徹」と「ヒューマニズム」の戦いといった人間模様に主軸がおかれていて、起業ドラマとしては消化不良な感じでした。
けれども視聴率は20%弱に迫り、さすがフジテレビと思ったものです。(ニッポン放送の買収劇でひどい目にあってもしっかり元を取ってきますからw)

さて、話を「リッチマン、プアウーマン」に戻しますが、ドラマは小栗旬演じるところの日向徹の起業成功ストーリーに夏井真琴こと石原ひとみが絡むというもので、ドラマのタイトルのリッチマンとプアウーマンがそのままこの二人というなんともベタな物語です。タイトルだけを見ると、リチャード・ギアのプリティウーマンを連想させるので、ダサい石原ひとみが次第にいい女に育っていく、まさかの渡辺淳一的展開かあw、とも思ったんですが、いざふたを開けてみるとそんなことはなく、きちんと起業ドラマになっていました。

事業の舞台設定は、ソーシャルゲーム会社、つまりグリーやDeNAをベースにしているんでしょうね。グリーの田中さんなんてもろにかぶっているかもしれません。しかし、話の中身はザッカーバーグ的なところあり、ジョブズ的なところありという感じでその根底を流れる男たちの葛藤が案外上手に描かれています。けれども、ディテールは突っ込みどころ満載で、「なぜ車はレクサスなんだあ」とか「オフィスの中が変」とかネット市民にも相当楽しく突っ込まれていました。少なくともぼくが経営者の視点で見ただけでも、労働基準法違反や商法違反など満載でw、作家の人はもっとしっかり調べて欲しいなんても思っていました。
そして極めつけは日向徹が会社を追い出される取締役会シーンです。おじさん取締役が20人ほど集まって開催されるんですが、どこの大企業かあ、と思わずフジテレビに電話したくなりましたw。

ぼくがなぜこのドラマについてあーだこーだ書いているかというと、この前、「ビジネスは消費者相手にやっちゃダメだ、人間相手にやらないと」という記事をこのブログを書いたのですが、そんなこと書くの実は相当恥ずかしいので「日向徹」の名前だけ借りてごまかしました。そしたら検索サイトに「日向徹」のキーワードで上位表示されてしまって、その記事がドラマが盛り上がるたびに検索されて、さらに恥ずかしいことになってしまったので少しきちんとドラマについて書こうと思った次第です。(言い訳w)

さて、また話をドラマに戻します。このドラマの作家がうまいなあと思うのは、日向徹の金に対する無頓着さとか出世欲のなさとそれとは裏腹に世間から注目されてしまうというギャップの描きかたです。「おまえが信用できる人間かなんてどうでもいい。ぼくがお前を信じる。」なんていう鳥肌もののセリフをさらりと言わせて、ますます変人「日向徹」の人間的な魅力を引き出して視聴者を味方につけていきます。さらに、視聴者に「そうだ!やれやれ!」と言わせているのは、自分が作った会社を追い出され身ぐるみはがされていく展開で、この苦難からの復活劇のすがすがしいところを早く見たいと思っているからです。(ネタばれしないように書かないとねw)

叩かれて叩かれまくったところからの起業というのに、ぼくもものすごく共感できます。というのも起業なんてものは、みんなに踏みにじられてバカにされている人じゃないとうまくいかないと思うからです。そこに浮かび上がるのは「コンプレックス」というキーワードです。
ぼくは「ベンチャー企業とは何か?」と問われれば、こう答えます。「創業者がたった一人に
なってももう一度やろうと今も思っている企業のことです」って。
よく大企業の経営者が当社もベンチャースピリットを持ってこの難局に立ち向かうとか言いますが、それは無理です。だって大企業の経営者の皆さんは、たぶん誰一人として、その大企業がなくなっても同じことをまた自分一人でやろうと思っていないからです。

スティーブ・ジョブズが魅力的なのは、会社を追い出されてもバカにされても、自分が基点となって新しいことにチャレンジするところにあります。ぼくから見たらジョブズは「○○を見返してやる」というコンプレックスの塊です。
ぼくも小さな会社ですが、起業して12年やっています。会社が成長するプロセスで一番苦労したのはもちろんお金の問題です。お金がなくなると会社なんてすぐ死んでしまいますからね。夜も眠れませんw。けれども、起業家にボディブローのようにじわじわきつくのしかかり、ベンチャースピリットをむしりとっていくのはむしろ「ヒト」の問題です。事業がうまく伸びずに仲間が会社を去っていくときが実は一番堪えるわけです。そのたびに「自分が間違っているんじゃないか」と自問自答するんですが、最後にいつも「自分はもう一度、ひとりでこの事業に立ち向かえるのか」ということを問い直すわけです。


「よし、オレはまだ一人でも戦える」と思える限り、その会社は絶対に死にません。


この起業家の「まだ戦う」という精神はどこから生まれるのか。それがまさに「コンプレックス」からだと思うんです。それは単純に貧乏からの脱出という金銭的なのかもしれませんし、自分の力が世の中に評価されないことを苦しく思う気持ちかもしれません。ザッカーバーグのように女にもてないことかもしれません。しかし、いずれにしても第三者から見ると、ばかばかしいことでも、自分にとっては大変な問題を抱えている人ほど起業家としては強いはずです。

ぼくのところにもいろんな起業家から事業プランが持ち込まれますが、ぼくは事業計画書なんてほとんど見ていません。だって、その事業がうまくいくかいかないかなんてそんな未来のことわかりませんからw。ぼくがその事業に投資したいと思うのは、その事業をやりたい人、その人が大きなコンプレックスを持っていると感じるときです。

まあ、こんな話長々と書いているとまた恥ずかしくなるのでこのへんで止めておきます。ということで、ドラマはあと数回、会社を追い出されてたっぷりコンプレックスを充電された日向徹をしっかり応援しようじゃないですかあ。
なーんて、結末がわかっているのにこのドラマにノセラレテいる自分がさらに恥ずかしいですねw。

@ankeiy