「おべっか戦略」を使わない戦略について

ホイチョイプロダクションの久しぶりの新著「戦略 おべっか」(講談社)を読んで見ました。
立ち読みじゃないですよ。ちゃんと買いましたとも。なんと言ってもぼくはホイチョイファンなんです。バブルのころ、白くま広告社に入社したかったくらいですからね。雪の降る冬の日、スキー板を持ち出して近所の坂道で、ウオークマンでユーミンを聞きながら30メートルばかりの極楽スキーを楽しんだものです(遠目)

おっと、昭和を懐かしんでいてはいけません。ぼくが今日書きたかったのは、この「おべっか戦略」の有効性についてです。この本で謳われている「おべっか戦略」とは、営業やプレゼンなどで気配りをすることがいかに重要な意味を持つかということです。まずは木下藤吉郎(秀吉)が草履を懐で温めて信長に気に入られた話や、石田三成がお茶の温かさと量を変えてお代わりを出し秀吉に気に入られた話など、いかに気配りが大物に効果的かという事例にはじります。
「ボールペンは安いやつを必ず2本持ち歩いて、もし得意先の担当者がボールペンを忘れたらすかさず渡すようにする」とか、「接待では相手の行きつけの店を予約し払いはこちらでしてお店を通じて接待相手を持ち上げる」とか、ホイチョイ流の気配り術が36個収められています。

上司と並べてはんこをつくときは、上司の斜め下に押すなんてのきわどい話もありますが、納得させられるものも多いです。たとえば、飲み会で上司におごってもらったらメールだけじゃなくて、必ず佐藤錦を持参してwお礼を言うとか。まあ佐藤錦は大げさですが、この時代、メールで簡単にお礼できてしまいますから、わざわざお礼を言いにきてもらえればこれは必ずポイント高いですね。このわざわざが案外刺さるわけです。
読んでいて思ったんですが、この「おべっか戦略」は社外向けというよりは、社内向けにかなり効果的な気がしました。そもそも秀吉も三成も組織の上司となる人に向けられた行動ですからね。

実際、いまどきの若者のみなさんはどう考えているのかわかりませんが、社内営業は良い仕事をするためには極めて重要です。たとえば挨拶ひとつとっても、上司は挨拶が気持ちがいい人に仕事を頼みたいと思うはずですし、さりげなく上司に対してリスペクトしていることや注目して
いることを伝えることができる人(嫌味やヨイショにならない程度に)はかわいがられます。チャンスっていうのはどこからやってくるかわかりません。自分の仕事の出発点である社内でできるだけ気配りをするということは大切なことだ思います。

なんて、書いていたら説教くさいおやじの話になってきちゃいますね。いけないけない。そうじゃないんです。今日書きたかったことは、ホイチョイさんには悪いですが、いまどき社外に向けては「おべっか戦略」は使ってはいけないのではないかと言いたかったのです。はっきり言ってホイチョイさんが言うように電通のスタッフがいかに気配りに優れたDNAを持っていても、そのやり方は過去の戦略でこれからは厳しいのではと思うのです。

じゃあ、いまどきどうすればいいのか。それは可能な限りビジネス上、人間どうしの気配りを
取り除く必要があると思うわけです。わかりやすく言うと接待のないビジネスです。なぜか。それはネット社会になってしまったからです。誤解されると困りますので、もちろんビジネスは人間がやるものですし、営業にとって人間力や優良な人間関係は重要です。けれども、そうした属人化したモデルは、ネット社会では通用しずらくなっているのもまた事実なのです。

わかりやすい例を挙げましょう。本当に大雑把な話で恐縮ですが、電通などの広告代理店ビジネスは気配りのできる営業マンを年収1000万円で雇って、一人当たり年間10億円の売上げを上げることで成り立っているビジネスモデルだと思います。つまり、広告代理店は売上げを10億伸ばすためには、必ず年収1000万円の営業マンを一人増やさなければなりません。いわゆる労働集約的な事業ですね。一方、Googleのビジネスモデルは、広告代理店と同じ年収1000万円のスタッフが10億円の売上げを作ったとすると、じゃあ次の20億円つくるためにもう一人必要かというとそうとは限らないのです。極端な話、一人のスタッフの年収を2000万円にしてモチベーションをアップさせながら、100億円の売上げ生み出していく場合もあるわけです。なぜなら、Googleはネットを使って効率よく営業をしているからです。実際、両社の利益率を比べればよくわかります。Googleの利益率は30%近くあるのに、電通をはじめ国内広告代理店は数パーセントしかありません。

この結果を見る限り、この時代、会社にとってもそこで働くスタッフにとってもGoogleのほうがメリットが大きいといわざるをえません。なぜ、そうなるのか。その背後には「おべっか戦略」をあえて使わない戦略があるのではないでしょうか。Googleをはじめとする高収益率なネット企業は、人間同士の「おべっか戦略」省略し、可能な限りネット上に「おべっか」を置き換えていわけです。極端な話、スタッフはどんな失礼なやつでも、サービスのユーザーインターフェイスがフレンドリーならそれでいいとかね。サービスの高速性が他を圧倒していればいいというような具合です。


ぼくたちおじさん世代から見ると、ついついもっと人間同士の義理とか人情大切にしょうぜという「おべっか戦略」を支持する昭和かれすすきになってしまうんですけど、ネット社会になってしまった今、それでは実はビジネスは成り立たなくなってきたということが言いたいわけです。
(もちろん、ホテルやレストランなどの対面サービス業はより高い気配りが要求される例外ですが)

うちの会社の営業にも、とんでもない服装のヤツや髪型のやつがいますが、これは昭和営業スタイルから見たら由々しき事態です。ホリエモンは、Tシャツ姿で、「仕事の能力と服装なんて関係ないじゃん。」と言い切りました。それはそれはですがすがしい正論ですが、世のおじさんたちからの批判も浴びました。ホイチョイさんの「おべっか戦略」でも服装も髪型もきちんとしないとダメだと書かれています。けれども、ぼくはここでもう一歩踏み込んでこう言いたいです。

「いまこそ、服装や髪型はもっともっと社会規範から逸脱していいぞ。それが理由で仕事を断られるならどんどん断られてこい。そのかわり、ネット上の入り口やサービスで徹底的にユーザーフレンドリーなものを死ぬほど必死に考えて実現しろ」と。

なんて大きなこと言っておきながら、さすがにぼくも株主総会をTシャツにできないし、銀行の頭取に会いにいくときはネクタイしゃちゃうかもしれません。(そんな葛藤がまた人間らしくてかわいく思っていますw)

@ankeiy

参考図書

戦略 おべっか ホイチョイ・プロダクションズ著 講談社