犬とノイズと暮らしたい。

うちの犬はTVが大好きです。朝から晩までTVばかり見ています。困ったもんです。ぼくも子供のころTVが好きでした。そんなぼくに衝撃を与えたのは、70年代はじめに流れていたサンヨーのカラーテレビ「ズバコン」のCMです。

「テレビばっかり見ていると 今にしっぽが生えてくる。それは大変、大変だ〜 しっぽが生えたらどうしましょ!」

ちなみに我が家のTVもサンヨー薔薇チェーンから購入したものでした。子供ごころにこれはまずいと思いました。尾てい骨のあたり触ると確かに尻尾のふくらみのようなものがあります。真剣にTVを見すぎちゃいけないと思ったものです。

そこで、ぼくもうちの犬にTVの見すぎを注意しようと思い、犬にむかって「テレビばっかり見ていると 今にしっぽが生えてくる♪」と歌ってみました。するとどうでしょう。もう尻尾が生えてました。恐ろしいですね。TVを見すぎると尻尾が生えるという話はやっぱり本当だったんですね。
うちの犬の好きな番組の話をしましょう。ニュースも見ます。オリンピックも大好きでした。ドラマもみます。特にすきなのは事件系のヤツです。刑事が犯人を追い詰めるシーンなど身を乗り出して見ています。でも、一番好きなのは大相撲です。あの肉の塊がぶつかり合う感覚がたまらないようで、つい「ワンワン」と鳴いてしまいます。

はじめぼくは、関取がぶつかり合うところを喧嘩だと勘違いして、「おい、やめろ〜」と注意しているのかと思いました。ところがその見方だと、何度か見ているうちに次第に慣れてしまって「なんだ喧嘩じゃないな、いつも同じパターンだ」と興味を失うはずです。
ところがうちの犬の相撲番組の見方がさらに回を重ねるほど熱が入っているのです。これはどうしたことでしょう。そこでぼくはひとつの仮説を立てて見ました。それは「犬は関取の痛みを感じているのではないか」という説です。

つまり犬の脳は、あのぶつかり合うシーンを見たときに、あたかもその痛みを自分のことのように置き換えて感じているのではないかということです。人間にもありますよね。爪がはがれた写真なんかを見ると、肛門のあたりツーンとしてあたかもその痛みを自分も追体験しているような、そう、そんな感覚なのではないかと思ったのです。

もし、この説が正しいなら、うちの犬は相当、高度な臨場感を得てTVを見ていることになります。なにしろ、自分が相撲をとっているわけですから。飼い主としては犬用の廻しを作ってやりたくなります。ホームシアター5.1チャンネルいや9.1チャネル顔負けのリアリティです。それどころか感覚にまで映像が進入しているのですから、まるで未来のTVを見ているような話じゃないでしょうか。

さて、ここからが本題です。って長い前ふりですねw。相変わらずのいいかげんにしろです。この前、ホームシアターショールームに体験に行ってきました。犬じゃなくてぼくがです。最新のシステムで多チャンネル&3Dでいくつか映像を見ました。係りの人がぼくに言いました。
「まるで本当にその場所にいるような臨場感ですよね」・・・。
確かにすごかった。車が走ってくると思わずよけなければなりません。けれども、ぼくは何かピンときませんでした。それは、何かというとぼくはそんなリアルなのものを本当に見たいと思っているのかという問題です。

リアルさよりも、よりぼくに迫ってくる何かが欠けているような気がしたわけです。それは、CDとアナログレコードで聞く音楽の違いのような「味わい」というか「感動」というものを脳が感じるということは、リアルさとまったく別世界だということじゃないかとうことに通じると思います。

まあ、こんなおやじの感傷的な話はいいとして、実際コンピュータやネットワークの世界はAIやエージェントの機能、いやそんなとこまでさかのぼらなくても、検索の世界でもより、正確で合理的な「間違いの少ない世界」が求められます。ぼくが仕事にしているネット広告の世界も最先端になればなるほどすごいテクノロジーで必死に解析して、Webやアプリ上に消費者の好みの広告を出そうとするわけです。つまり、ノイズをどんどん消去することを最高の仕事として目指すわけです。

本当にそれでいいんでしょうかね?それで消費者は満足しますかね?

文句言いながらもノイズの中に新しい発見があったり、感動があったりすること、コンピュータの判断では距離があるが人間の感情ではぐっと距離が近いことってもっとたくさんあるんじゃないかなと思うわけです。このへんにマーケティング的にはすごいヒントがあるんだと思います。

綺麗に高層ビルが立ち並ぶ街が、ネットやコンピュータを駆使して情報を整理した未来世界だとすると、のんべい横丁やアメ横のようなところはノイズだらけの過去の世界って捉えてみると、(つまらない感傷を取り除いても)やっぱりノイズあふれる過去の世界の方が「良いなあ」と思うのはぼくだけじゃなく、人間の普通の感覚じゃないでしょうか。

というわけで、今日もぼくはTV好きな犬とノイズだらけの部屋に暮らしているわけです。

@ankeiy