クロネコヤマトの苦境を「創業者、小倉昌男さんだったらどう考えるか」という長いタイトルの話

クロネコヤマトの宅配便が苦しんでいます。ネット通販が成長する中で、特に昨年はアマゾンの躍進もあり、宅配市場の取り扱い個数が6.4%もアップしたそうで、年間総貨物個数は38億個にもなっているそうです。需要が加速しているんですね。最大手のヤマトホールディングスですら「急成長」「人手不足」の中で相当苦戦しているようです。

市場が拡大するというのはビジネスとしてはうれしい悲鳴なんでしょうけど、急激な変化に組織も仕組みも対応しきれていないというのが実情のようです。
実際ヤマトホールディングスの2017年3月期の1月〜12月までの決算を見ると、売上は1兆1181億円と前年より3.1%伸びているのにもかかわらず、経常利益は583億円と前年より8%も減少してしまっています。4割を超えるシェアも若干落としてしてまっているんですかね。

それで、これから宅配市場どうなるのかというと、日本の商取引に占めるEコマースの利用率ってのはまだたった5%前後、これからさらに増加することは間違いなく、この急拡大はしばらく続きそうなんですよね。

未来においては大規模物流拠点のロボット化や自動運転、あるいは地域住民を活用したシェアリングサービスなどテクノロジースマホの能力をフル活用して、生産性の大幅な改善やイノベーションが待っているんだと思いますが、しばらくは大変な状態が続きそうです。


クロネコヤマトの宅急便は、1976年2月にスタートしています。ちょうど今から41年前ですね。クロネコヤマトの宅急便が始まるまでは、郵便小包しかなかったんですよね。ぼくも子供のころの記憶がうっすらありますけど郵便小包って送っても到着まで1週間とか平気でかかる、それをクロネコヤマトの宅急便は翌日配送でしかも低料金という画期的な仕組みで市場をゼロから作ってきたわけです。いま私たちが日々利用している宅配システムはまさにクロネコヤマトの宅急便が作り上げたといっても過言ではないのです。

そこでいい機会なので、ぼくが大好きな経営者、宅配便の父、クロネコヤマトの宅配便を創業した小倉昌男さん(以下、小倉さん)をこのブログで紹介したいと思いたちました。

小倉さんには一冊だけ著書があります。「小倉昌男 経営学」(日経BP社)です。この本が魅力的なのは、小倉さんの名声やヤマトホールディングスのPRのために書かれたような本じゃないところにあります。ちょっと「まえがき」から小倉さんの記述を引用させていただくと

クロネコヤマトが成功した後)ヤマト運輸の社長だった私のもとに、本を書かないか、という依頼が次々に舞い込んできたのはちょうどその頃である。けれども、私は一切お断りした。成功した経営者が自らの経営談義を出版すると、やがて起業自体は不振に陥り、一転、失意に陥るーそんな例をいくつも見て来たらである。(中略)

経営者の頃にさまざまな決断をしてきたが、なぜそうしたかを社員に詳しく説明しないことが多かった。社長である自分がどうしてそう考えたのか。いま改めて話してみるのも意味があるのではないかー。そう思ったから本書を書こうという気持ちになったのである。生涯に最初にして最後の1回限りの著作である。

しかも私は、物を売ったり販売したりした経験はない。運送のことしか知らないから、一般のお役に立つとも思えない。サクセスストーリーを書く気はない。乏しい頭で私はどう考えたか、それだけを正直に書くつもりである。

引用長いです。すみません。でももう「まえがき」からしびれますね。この謙虚さ。生涯たった1冊の著書なんですよ。経営者なんて調子いい生き物ですからちょっと有名になると調子こいて何冊も本だしたり講演したりするんですがw、小倉さんはそんなことは決してしてこなかった。でも自分の経営判断や考え方が後進の役に立てばという思いで、70歳を過ぎてから書かれたものなのです。

この「小倉昌男 経営学」は1999年初版ですから出版から既に18年の月日が流れています。いまだに多くの人に支持され38刷まで版を重ねています。小倉昌男さんは残念ながら2005年6月お亡くなりになってしまいました。享年80歳。本当に名経営者、いや真のアントレプレナーだったと思います。

小倉昌男さん(以下、小倉さん)は、現ヤマトホールディングスの創業者というわけではありません。父親が1919年に創業したヤマト運輸を引き継いで社長となった方です。いわゆる二代目社長です。大塚家具の社長さんも頑張ってほしいと思います。あっ、関係ないかwしかし、小倉さんが引きついだとき、近距離路線で大きくなったヤマト運輸は、長距離輸送時代に乗り遅れ、じり貧状態だったわけです。そこで同じように長距離路線に進出するんですがまったく先行組に追いつけず利益がでない。そこで苦しむわけです。なんとか会社を成長させないといけない。そこで決断したのが「宅配」への進出なわけです。宅配便にすべてのリソースを集中しようと決断させた背景には牛丼の吉野家があったそうです。「吉野家が儲かるのは単品商売だから、だから私も一つのサービスに集中しよう」と考えたそうです。そこからは苦難の道のりです。みんなから絶対に成功しない、あいつはバカだと思われる中、自分のビジョン、経営理論を忠実に実行し、最後はあの誰でも知っている「クロネコヤマトの宅急便」に育てあげるわけです。まあ、その苦闘の経営については本書に譲ることにして、ここではでは、現在宅配市場で起きている問題に、この小倉さんが立ち向かったらどう判断するのかということについてを考えながら、その人となりを紹介していきたいと思います。

まずはこの問題、

「アマゾンの配送を引き受け「正直しんどい」 過酷すぎるヤマト運輸の実態」

とにかく日本でのアマゾンの躍進はすさまじいものがあります。年商が1兆円に到達したとかしないとか。この成長を支えているのは間違いなく日本の宅配システムです。しかし、あまりにも手軽なゆえに配送個数が増え、しかも宅配業者への手数料が安いので厳しいという話がニュースになっています。佐川急便はいち早く撤退をしてしまい、ヤマトホールディングスがいまやアマゾンを支えているという状況です。そこで単刀直入に小倉さんだったら「ヤマトホールディンスのアマゾン撤退はあるのか?」を考えてみましょう。

これは、間違いなく、

「あります」

というのも、小倉さんは宅配便に参入した直後に、ヤマト運輸の屋台骨を支えていた三越とのお中元お歳暮の宅送取引を切るという大ナタをふるっているからです。この時は、50年以上続いた最大顧客との契約解除だったので苦渋の決断だったようですが、三越サイドの理不尽な対応に相当頭にきていたようです。もし、アマゾンがヤマトホールディングに理不尽な条件を押し付けてくるようなことがあれば小倉さんならさっさとて撤退したと思います。もっとも三越を切った当時は、宅配ビジネスが急成長している中でできた決断すが、今回、アマゾンという顧客を失うことで、新しいサービスに注力できるかどうかがポイントなると思います。例えば宅配というサービスそのものを利用してネット通販事業よりイニシアティブを取れるような何かです。もちろん、アマゾンもヤマトを失うわけにいかなでしょうから、厳しい交渉になると思います。アマゾンプライムの料金が年間3900円ですから、これに2000円上乗せして、その分をヤマトに支払うなど対応があれば問題ないかもしれません。顧客側にとっては満足度後退ですが、これをベゾスさんがどう考えるかwこれはこれで許しませんよねwクロネコプライムでも作ったらどうでしょうかw

続いてこの問題、

「ヤマト運輸、荷物の抑制検討へ 人手不足で労働環境悪化」

小倉さんだったらこの「人手不足の問題をどう乗り越えるのか?」について考えてみましょう。

まちがいなく、従業員の報酬を上げても徹底的に人員を増やす投資を行うと思います。それは小倉さんの経営哲学の根本に「サービスが先、利益が後」という考え方があるからです。利益はでなくともとにかくサービスを優先しなければいけない、徹底した顧客志向を続けていけばおのずと利益は後からついてくるという考え方です。これは人材についても明確に「社員が先、荷物が後」と語っています。

こはちょっと引用しましょう

人員が増えると、人件費が増えるといって警戒する経営者が多い。それは人のデメリットに着目した考え方である。経営の健全化とか経営のリストラというと、社員の削減が施策の中心なっていることが多いが、私はそのことに常に疑問を感じている。(中略)
人員が増えると人件費が増えるというデメリットは結果であって、その前に生産性があがる、収入が増える、というメリットがあるはずである。もちろんメリットがなければ人など増やす必要はない。だが、人件費を増えるのは嫌だといって人を増やさなかったら、企業の活力は失われてしまうだろう

こんなふうに続けます。

私が唱える「サービスが先、利益が後」という言葉は、利益はいらないと言っているのではない。先に利益のことを考えるのをやめ、まず良いサービスを提供することに懸命の努力をすれば、結果として利益は必ずついてくる。それがこの言葉の本位である。

実際、ヤマト運輸は宅配便をはじめた最初の5年で3,620名を、次の5年で14,330人を採用し、10年で従業員を17,950人も増やしているのです。とんでもない一気の増員ですw

また、小倉さんは、労働環境を改善させるために「安全第一、営業第二」というキャッチフレーズでキャンペーンをしたことがあります。「営業もがんばれ、安全もがんばれって何でもかんでも第一にするから何が第一かわからなくなってうまくいかない」だから安全第一にしろと明確にメッセージしたと言っています。とにかく従業員あってのヤマト運輸という考え方を徹底的にもっていました。

こうした考えは後に「全員経営」という経営の目的と目標を明確にした上で、従業員に可能な限りの裁量権を持たせ仕事を責任をもって遂行してもらうスタイルにつながっていきます。

ここも良い話なので引用しましよう。

全員経営とは、全社員が同じ経営目的に向かい、同じ目標を持つが、目標を達成するための方策は社員一人ひとりが自分で考えて実行する、つまり社員の自立的な行動に期待するのである。社員に目標は与えるがやり方について命令したり指図したりせず、社員がその成果に責任をもって行動する、というものである

労働時間の管理責任はセンター長にあり、所属員が月間の労働時間の枠や年間休日を守っているかどうか、監視している。全員経営は会社の企業文化である。宅急便のSD(セールスドライバー)は、優しく親切な人が多いとといってお客様にほめられることも多い。もちろん社員に対する研修は一通りやっているが、サービスは受けるお客様の立場に立ち、どうすべきかを判断し実行するという、ヤマト運輸の企業文化が社員の体質にしみ込んでいるからだと思いっている。

と小倉さんは語っています。

「ヤマト、巨額の未払い残業代 7.6万人調べ支給へ」
こんなニュースも流れていますが、ここは小倉さんの原点に戻り、まずは過去を清算しあらためて「全員経営による生産性改善」に取り組むタイミングなのかもしれませんね。

最後はこの問題、

「クロネコも耐えられないネット通販、米国ではどのように対処しているか」

そうです。クロネコヤマトの宅急便のビジネスモデルが、ネット通販時代にもう時代遅れで、新しい仕組みに変えるべきではないかという話です。米国ではネット通販が始まってから仕組みがイージーになり、受領サインがなくなったり、安全な場所に荷物を置いて再配送をしないようにしたりしているし、配送はせいぜい2日か3日、即日配送なんて考えられなくなっているようです。日本もそうしたネット通販時代の新しい仕組みをつくるべきじゃないかという問題です。

ところが日本ではアマゾンはもう「PrimeNow」というサービスで2時間便や1時間配送まで手掛けはじめていますし、先日ドン・キホーテもアマゾンに対抗して58分で届けるとか言い始めていますし。さらに宅配時間を短縮する流れになっているわけです。もっともこの流れの一番源流はというと、それはクロネコヤマトの宅急便の「日本全国翌日配送」なのです。小倉さんは宅急便をどこにでも翌日に届けられるネットワークにサービス開始時からとてもこだわっていました。

小倉さんはこんなふうに語ります。

荷物の輸送で一番値打ちがあるのは、「早い」ことである。「確実」とか「安い」ということも大事だが、やはり早いのが一番だ。だが、ただ早いというのではセールスポイントにならない。具体的に「翌日着きます」と言わないとインパクトが感じられない。

もしネット通販時代なのだから、サービスの品質を少し落としてもいいんじゃね?っていう話になるなら間違いなく小倉さんの返答は「Nooooooooooo!」ですね。絶対に「サービスが先、利益は後」の精神に立脚して可能な限り高速で届けるようにするでしょうね。

こういう話をすると、「ちょっとまて消費者はそんな早く届けることを望んでいない」もっと遅くしても大丈夫だという人がいると思いますが、それはそうかもしれませんが、優れた経営は人間の本質について考えると思います。買ったものが手元に1分1秒でも早く届くっていうのは、ほかにメリットがない限り必ず誰もが持っている本質的なニーズだと思うんですよね。だとすればそこを目指して最大限努力するわけです。

さてさて、スゲー長くなってクロネコヤマトより自分も疲れてきていますので、ここらで話をまとめますとw

小倉さんなら今の宅配市場の混乱の中で「ヤマトホールディングスが赤字に転落しても社員を採用しまくり、時代背景にあった報酬を支払い、全員経営の精神で社員の生産性を上げつつ、サービスのレベルは一切落とさず、顧客に可能な限り早く届ける仕組みを作っていくと思います、それによって伸びる市場でシェアを広げる」というアクションを取るでしょうね。

「おいおい、そんなことできるかって?」小倉さんならあきらめずにやるでしょうねw何せヤマトホールディングスのセールスドライバーは既に6万人もいるんですからねw

小倉さんはテクノロジーやシステムにも強いですよ。いまのウォークスルーできるトラックもトヨタと開発しましたし、クール宅急便の冷蔵トラック、あれだってテクノロジーの塊なんですよね。人とテクノロジーを組み合わせてどんな未来の物流を作るか、もしこの時代に小倉さんが現役だったら、この苦難を前に

「いよいよ面白くなってきたぜ」

って感じじゃないでしょうか。

最後にクロネコヤマトの同じみのこのマーク、母親猫が子猫をくわえて運んでいるんですが、お母さんが子供を大切に運ぶように荷物を運びたいという小倉さんの創業の想いが込められているんですね。

ぼくたちも宅配便を利用するときは、そうした想いに感謝したいものですね。

@ankeiy