マネーの虎が倒産する理由について

昨日も一社マネーの虎に出演していた社長の会社が倒産したというニュースが届けられました。経営者の心情を考えると、さぞ無念だろうなあと思います。ぼくもあの番組、大好きでした。本音で語る経営者の自信、ゆらぎ、必死にプレゼンする出演者の危機感が、ひしひしと伝わってきました。それは飛び交う札束や吉田栄作の演技臭さも含め作りこまれている番組コンテンツから、はみ出している感じが、逆にリアルさを伝えていたのかもしれません。そんなこんなで、出演社長の倒産は実に残念なことだと思います。


マネーの虎の出演社長の会社が倒産したのはこれが最初ではないんですね。何社か失敗して倒産や事業縮小に追い込まれている。ネットではちょっと倒産が多すぎない?なんて声も上がっています。事業は栄枯盛衰ですからしかたない面もあると思いますが、あの番組に出演した、個性が強く、強い意志と経験を持つ経営者だからこそ、事業に行き詰まってしまった可能性もあるのかなあとも思います。そこで今回は、そんなマネー虎的経営者をなんとなく念頭において、一見すぐれた経営者がなぜ追い込まれていくのかということについて考えてみましょう。

ぼくが言いたいポイントは以下の3つです。

1.いけいけカリスマ社長の限界
2.経験と自己否定のむずかしさ
3.プライドという負の資産

そもそも社長というのは、自分で動かないと何も始まらない職業なわけですから、行動力があるわけです。行動力があるから、周りの人を動かす力を持ち、事業を拡大できるわけですね。ある程度事業が大きなくなると、周りから「あの人はすごい人だ」なんて言われて、次第にカリスマ性も帯びてくる。そしてさらに社長は、「忙しい忙しい」と言いながらさらに行動し、カリスマ性を武器に事業を伸ばす。まさに良循環ですね。この流れってある時点まではすごくいいんですね。ある時点までは。どこまでかっていうと、社長があらゆることに口を出せたり、目配りできるところまでです。人によってその能力は違うでしょうから、一概にこんなサイズとは言えませんが。じゃあ、このある時点を超えるとどうなるか。それは残念なことに社長が自分で見渡せる範囲まで事業の成長が止まってしまう。止まるだけならいいんですが、景気は動きますし、競合も動きます。ですから、ちょっとしたことがきっかけで事業が行き詰ってしまう可能性も次第に大きくなっていくわけです。


次に、成功している社長、そうマネーの虎に出演して第三者にアドバイスできるような人っていうのは、当然多くの成功体験を持っているわけですね。そうじゃなきゃ知らない人の事業なんて評価できない。けれどもこの多くの経験っていうのもある時点までしか通用しないんですね。ある時点というのはこれまた自分のモノの見方の限界点と言いますか、想像力が働く範囲ってところでしょうか。とにかくそこまで経験が生きるんですよね。ところが、そこを超えると経験もマイナスに働きます。だって未知の世界を自分の経験に当てはめて考えるなんて想像しただけで恐ろしいですよね。「暗闇で俺は視力1.5のはずだ」と言っているようなものですから。これは周りから見ても不安なはずで、次第に今まで力を貸してくれていた人まで離れていたりしてしまうわけです。


それと、たぶん成功する経営者に共通しているのは、コンプレックスだと思います。事業をはじめたときに脱サラした会社を見返してやろうとか、友人を見返してやろうとか、ふられた恋人を見返してやろうとかw、理由は何でもいいんですが、大きなコンプレックスを持ち、それをチャレンジのエネルギーにしているわけです。まあ、このエネルギーがレギュラーガソリンの人もいれば、ハイオクのひともいる。中には木炭のひともいるかもしれないw。でもいずれにしても新しいことを生み出すための大きなエネルギーなわけです。ところがこのエネルギーが大きければ大きいほど、ある程度の成功を収めはじめると、それがプライドに変わっていってしまう。矜持それ自体はけっして悪いことじゃないし、人間として忘れちゃいけないモノだだと思いますが、これがあまり強くなり過ぎると、いろいろなことがばかばかしくなってしまう。例えば、一緒に仕事をする人を見下してしまったり、取引先をばかにしたりっていう感じですかね。


こんな感じで、創業するときはプラスだったものが、成功、あるいは「成功したね」と周りから評価された瞬間に徐々に逆回転する。あきちゃんに逆回転してもらう分にはかわいいで済みますが(ここであまちゃんを出すw)、大の大人が自分の置かれている状況に気付かづに、ぐるぐると目の前で回り出すわけです。そして、恐ろしいことにこの逆回転を止めるスイッチは、自分にしか押せない。周りはただただ見ているしかないわけです。まあ、これを愚痴を言いながら、パラノイアのように寄生する人々もいて、それはそれは見ていて気持ち悪い状況になるでしょう。

こんなことを書いているぼくも経営者の端くれとして、いつもすごく難しいバランスの上に立っているなあと思っています。相当気を付けていないといつ逆回転しはじめるかわからないからです。ということでマネーの虎の倒産は決して他人事ではないわけです。

自称経営者のみなさん、逆回転はお互い気を付けましょうねw。


@ankeiy