故障はいつも走ることの意味を教えてくる件について

かれこれ半年以上、走っていません。こんなに走っていないのは走りだして初めてです。なぜ走れないのかというと、足の裏を痛めてしまったからです。それは1年前の思い出すも恐ろしい「214キロ走破チャレンジ」(詳しくはこちら)が原因でした。

少しくらいの痛みならいつものことなので、そのうち直るだろうと軽く考えていたのですが、2月の寒いある日、ついに痛くて歩けなくなってしまいました。過去にもハムストリングや膝や甲やとにかくいろいろ故障しているのですが、歩けなくなってしまったのは今回が初めてです。
これはさすがにやばいて思いました。オフィスからの帰り道、苦痛に顔をゆがめながら整体屋に飛び込みました。そしてここから長い故障との戦いの日々が始まったのです。

整体院には小太り無精ひげの先生がいました。患者はだれもいません。ちょっと不安でしたがとにかく痛みを何とかして欲しくて余裕がありません。「先生、足の裏が痛くて歩けないんですけど?」とぼく。「どこが痛いの?」と先生は足裏を指でゴリゴリ押します。ちょうど土踏まずとかかとの付け根のあたりが押されると激痛が走ります。「ははあ〜マラソンか何かやってるだろ?」と的を得たりの先生。「ここ走り過ぎたりするとよく故障すんだよなあ」「年寄りにも多いんだよなあ」と、ぶつぶつ言いながらよく見ると笑い飯のひげの生えているほうにも似ています。「もう走ったらダメだよ。無理をすると腱が骨化して、手術しないといけなくなるからね」と散々おどされました。先生の説明によるとどうやら足の裏の方形筋という筋肉の付け根の部分が炎症を起こしているようです。「ほうけいきん・・」「ほうけい」なんとも縁起の悪い名前です。「上野クリニックかあ」と突っ込みたい気持ちをなんとか整体しました。

家に帰ってネットで検索すると、完治には3ヶ月〜3年かかると書いていてありました。3年・・・。しばらく小太り無精ひげ、いや笑い飯先生を頼ってみることにしました。

笑い飯先生の治療は、まずはアイシングして、そのあと指圧をします。くるぶしの後方下部あたりのツボを押すんですが、これが痛いのなんのって、頭の先までツーんとくるのです。
何日か通ううちに電気とか赤外線とかレイザーとか、いろいろオカルトぽいw秘密兵器を繰り出してきました。ところが痛みがなかなか取れません。ぼくはだんだん不安になってきました。
「こんなことをやっていて本当に直るんだろうか?」もしかしたら鳥人にされてしまうかもしれません。

笑い飯先生は基本無口なんですが、車の話とかになると食いついてきます。どうやら先生は走り屋のようで、昔は相模湖方面でブイブイ言わせていたようです。自分の足で走るなんていうことにはまったく興味がなく、いつも車の足回りの話ばかりです。そして、ある日、確か・・先生の横にあったゴミ箱に捨てられていたトウスポの『衝撃、カッパ発見!』という見出しを見たとき、ぼく決断しました。

「もうオカルトに頼るのはやめよう」

次の日早速、近代的な整形外科を訪ねることにしました。この病院は何年か前、肋骨にひびが入ったときにお世話になったところです。ここの先生は谷啓に似ています。「がちょーん」とは言ってくれませんが、白衣を着ていてもけっしてケーシー高峰には見えません。それになんといっても、この病院にはレントゲンがあります。レントゲン写真を前に、谷啓先生が自慢げに話してくれます。「ほら、この腱が白く炎症しているでしょ」と。やはり近代的な病院は違います。梅ちゃん先生も1日も早くレントゲンを入れたほうがいいと思います。

谷啓先生は、夏になるとなぜか若い女性にこの症状が出るとか、江戸時代は草履だったからこんな病気がなかったはずだとか、下駄だともっと健康にいいかもしれないとか、ぼくにほとんど関係ない非科学的な話をたくさん教えてくれました。肋骨にひびが入ったときも、ぐるぐる巻きにコルセットされて息ができずに死にそうになったことをそのとき思い出しました。

いずれにしても原因は明確になったのですから、じっくり治すしかないのです。
とにかく、あまり歩かず走らずとにかく安静にしていました。けれども春になり、初夏になってもいっこうに痛みが取れないのです。さらに悪化しているのではないかと思ってしまう日もあります。けれども性格的に治るのをただおとなしく待っているぼくではありません。

まずは、手のひらを開いて結ぶイメージで、足を開いて結ぶ運動をすることにしました。床に置いたペンを足の指で拾うとかもチャレンジしました。ネット調べたらそれは有効そうだと書いてあったからです。するとどうでしょう。見事に足が攣りました。
次に、つま先で歩くトレーニングも開始しました。踵への衝撃が和らぐと同時に、方形筋を鍛えられると思ったのです。まさに一石二鳥です。ところが、今度はふくらはぎやアキレス腱が痛くなってよく歩けなくなってしまったのです。二兎を追うもの一兎も得ずです。

しかたがないので、この夏はクーラーの効いた部屋でくつろぐ毎日にしました。太陽が怖くなり道路も日陰を選んで歩くようになりました。もう少しで男の日傘を買うところでした。
一時はサーファーに間違えられた、暗闇に溶け込む黒肌も普通のおじさんに戻り、体重が3キロ増え、当然ズボンのサイズが怪しくなってきました。なんとスポーツにまったく興味がなくなってきたのです。オリンピックを見てもいまいち気合が入りません。そしてついには、街でジョギングしている人を見かけると「そんな疲れることしてバカじゃない」などと思ってしまうようになってしまったのです。恐ろしいですね。人間が転向してしまったのです。


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本日明け方にある夢を見ました。それは広いサバンナのような神秘的な場所にたった一人きりでたたずむ夢です。けれども周囲に何か恐ろしい猛獣がいます。そのうちの1頭が飛びかかってきました。やばい、早く逃げないと・・ところが足が動きません。そして、冷や汗を流しながら悪夢から覚めました。外はうっすらと明るくなっていました。その時、突然あることを思い出したのです。

「ガゼルは朝起きて走る。ライオンより速く走らないと食われてしまうからだ。ライオンは
朝起きて走る。ガゼルより速く走らないと食料にありつけず生きて行けないからだ。」

それは何年か前に「Born to Run」という本を読んだときに出てきた一文です。そんなようなことが書かれていました。正確じゃないと思いますが。

草食動物は逃げるために走るわけですが、ライオンのような食物連鎖のトップにいる動物も生きるためには走らなければならないということです。つまり、動物は皆走らなければ生きて行けないのです。

そして、ぼくは気がつきました。

「そうだ、ぼくも走らないと生きて行けないんだった・・」

走り始めて、なぜジョギングなんてするの?て周囲から聞かれて「健康のため」とか「うまいビールを飲むため」とか「おねーちゃんにモテルため」とか適当に答えているうちにどうやら大切なことを忘れかけていたようです。もちろん、マラソンで記録をどんどん縮めていくことは楽しいものですが、記録を目指して練習しているうちになぜ走っているのかよくわからなくなっていたのも事実です。

もしかもしたら、よくわからなくなっていることを確認させる期間としてこの怪我があったのかもしれません。

9年前にマラソンをはじめたとき、からだ的にも精神的にもぼくはかなりギリギリでした。それまで蓄えてきたエネルギーを仕事につぎ込んで、そのプレッシャーにいつも押しつぶされそうになっていました。だから、自然と走り始めたんじゃないかと思います。結局、今考えれば、ぼくの動物的な本能が走らせたのかもしれません。

動物は走らないと死ぬ。そうです。人間も動物なんですよ。食欲、性欲、睡眠欲すべての動物に共通しているこのゆるぎない欲望。そしてそこに加わる生きていくための第4の欲が「走欲」なのかもしれません。(また、わけのわからないことを言い始めましたw)

というわけで、今日ぼくは朝久しぶりに河川敷を走ってみました。もちろん走ったあとしっかりアイシングやマッサージをしましたけど、痛みをそれほどもなくちょっとほっとしました。

これからも様子をみながら走ろうと思います。どうやらぼくはここではまだ死なないようですw


@ankeiy