中国のネット市場は1+1=11である。〜Global Mobile Internet Conferenceの話〜

さわやかな青空がひろがる。心地よい風が頬をなでる。オリンピックもこの時期に開催できたらきっとこの街の世界の印象はもっとよくなっていたかもしれない。というわけで今、私は北京にいる。なぜこの場所にいるかといえば、うちの会社のモバイル部門の責任者に「Global Mobile Internet Conference 2011」というイベントに参加しようと誘われたからだ。

このイベントはアジア最大のモバイルカンファレンスと銘うっていて、中国の主要インターネット企業や日本のモバイル関係者が集まり、それぞれの実績をプレゼンテーションし、これからの見通しをディスカッションする場である。北京オリンピックが開催されたスタジアム、通称「鳥の巣」のすぐ横にある国際コンベンションセンターで4月27、28日と2日間にわたって開催された。


余談だが、今も異様な存在感を示すオリンピックスタジアムではあるが、人影はまばらで、ホコリやカササギの糞で汚れた寂しい姿が、先日突然拘束された同スタジアムの設計者でもある艾未未氏の今と重なって見えた。


タイトルに使った「1+1=11」は、中国のデバイス企業「Aigo」の会長FENG JUN氏の言葉をかりたものだ。同社はフォトフレームの分野などで現在中国シェア80%近くを誇る1993年設立のベンチャー企業だ。FENG氏は同社の成長の秘密として工夫とスピードで1+1を11にするパワーがをあげた、そしてこの「1+1=11」を同社スローガンにしたという。日本人だったら常識的に1+1=2、ちょっと変わった人(笑)でも3くらいにできればと思う程度だと思うが、いきなり11である。これはまさに人口13億人を超える市場を抱える中国ビジネスのパワーの象徴のように思えた。


さて、カンファレンスのなかで印象に残った話をざっと紹介しよう。

このイベントのたぶん最大のスポンサーになっている大手ポータルサイト新浪(SINA)はミニブログサービス「Sina Weibo」で今年年初に18ヶ月で1億人ユーザーを突破したと鼻息が荒い。Twitterより関係性が構築しやすいと単なるコピーでないことを強調した。同社はこれからソーシャルネットを意識した展開をさらに強化していくとしている。もっとも中国のインターネット人口は既に5億人近くになり、モバイル端末での利用者は3億人にも及ぶそうだから、1億というのは単なる通過点と考えているようだ。面白いことに「Sina Weibo」は、最近i-Phoneアプリの英語版を海外向けに出している。今後は世界展開も目指していくようだ。中国国内からTwitterFaceBookの利用が制限されている中、同社のこうした展開を中国政府がどう考えるかは興味深いところである。壇上に立ったCEOのCharles Chao氏はインタビューで、「米国政府ではオバマTwitterをはじめているが、華国鋒はSinaをいつ使い出すのか?」と聞かれたが、「それは大変難しい質問だ」と言葉をにごしていた。


日本から参加したGREEはCEOの田中氏が壇上に立った。同氏は「ソーシャルネット」「ソーシャルゲーム」「ソーシャルゲームプラットフォーム」が事業の柱だと語り、日本国内で2500万人、先ごろ買収したOpenfeintで7500万人で1億人を超えるユーザーを抱える企業であると同社を紹介した。また、同社の強みを50%を超える高利益率企業であることとし、Openfeintの顧客にそのノウハウを伝えることで、収益性を魅力にしたプラットフォームを育てていきたい意向を示した。同社がプラットフォームを提供することで、日本のゲーム会社は世界進出がしやすくなり、世界のゲーム会社は日本市場に参入しやすくなることを強調した。さらに中国市場に関しては大手ポータルサイトのテンセントと提携関係にあり、近いうちに具体的な提携内容を発表できると語った。


フィンランドからはiphone向けのアプリとして有名なRovioの開発者が「Angry Bird」について説明した。2003年からスタートした同社は、はじめノキアなどのキャリア向けのゲームを開発していたが、AppleApp Storeの登場で転機が訪れた。同ソフトは現在1億4000万ダウンロードを記録しており、その勢いは止まらないようだ。「以前はゲームの面白さをキャリアに判断されていたが、Angry Birdは消費者に直接評価されることが画期的だ」という言葉が印象に残った。
Angry Birdはまずキャラクターを開発し、その性格付けなどを行ったあと、展開や音楽などを考えた。背景の作画などは5歳の子供がスケッチしたものを利用しているなどユニークな一面が紹介された。また、マーケティングの重要性も強調した。同社はTwitterからのユーザーの声を丁寧に拾うようにしているという。キャラクターはオリジナルグッズにして販売も行っておりこちらも大成功している。近々FOXと組んだ映画も公開される予定であるとし、アプリケーションにとどまらない水平展開の戦略も紹介された。


BtoBポータルとして世界的な企業に成長したアリババのCEO、Wang Jian氏も壇上に立った。具体的な数字などに触れなかったが、現在、同社のスマートフォンアプリなどがモバイルの利用を牽引していると、ことわった上で興味深い話をした。要約すると、みんなスマートフォンのアプリケーションで盛り上がっているが、ネットのインフラ化やクラウド化が進む中で一つのアプリケーションの中からさまざまなサービスを受けることができるWebサービスは極めて重要であるということだ。ブラウザはさらに進化するだろうし、アプリケーションがWebよりも大きなサービスになるようなことはありえないのではないか。Webはオープンでかつ開発プラットフォームとして大きな資産を持っていることに大変な価値がある語った。


IMサービス「QQ」でも有名な大手ポータルサイト「テンセント」はモバイル事業の責任者がプレゼンテーションを行った。同社は「水を集めて雲にする」というコンセプトで事業を進めているという。水とは良質なサービスで、雲とはプラットフォームを指すと説明していた。同社の戦略の重要ポイントは「クラウドコンピューティングを進める」「SNSを拡大」「リアルとの融合」「ソーシャルゲームの拡充」「E−Commerceの展開」などをあげていた。同社はQQという優れたソフトを持っており、それを核にソーシャルネットのプラットフォーム化を進めていく戦略だ。また、既にグルーポンなどとも提携関係にありフラッシュマーケティングや広告への足場を固めている。膨大なユーザーベースをもとにさらなる収益化を実現させていきたいようだ。


DeNAはCOOの子安氏も登壇した。Mobage Chinaを昨日オープンし、6月にもmobageのプラットフォームを中国で正式リリースしたいとした上で、同社の強みと戦略を語った。まず同社の最大の強みは日本国内で2500万にユーザーがおり、ソーシャルゲームで1000億という世界最大級の売上げを実現している点にあると説明した。さらにFaceBookZyngaなどとの差別化としてユーザー一人当たりの課金収入が15倍〜30倍になるとして、そのビジネスモデルの優秀さをアピールした。今後の戦略としては「X-Border」「X-device」を上げ、世界戦略を加速させると共に、今年度はリソースをスマートフォンに集中していきたいと述べた。昨年買収したNgmoco社のi-Phone上でのゲーム開発プラットフォームの優位性を上げ、Mobageプラットフォームとして世界的な展開をしていくとした。同社のNGコアという開発エンジンを利用すれば、ワンソースでアンドロイド、iOSに対応できるので、デベロッパーに低コストでより大きなビジネスフィールドを提供できると話した。さらにNGコアの最大の強みは「ライブアップデート機能」、App Storeで開発者を悩ましていたバージョンアップのタイムラグと手間の問題がこの機能により、改善されるという。また開発環境もJavascriptなのでWeb技術者にも容易にアプリケーション開発が出来る点も強調していた。Mobage Japanは5月ころ、Mobage Grobalは5月〜6月ころのリリースを予定している。中国で著名なアプリ紹介サイト91.comとも提携した。中国デベロッパーに対しては1000万元の開発資金提供と人的なサポートを行うので、開発に参加して欲しいと呼びかけていた。


大手ポータルサイト捜狐(Sohu)のCEO、Charles Zhang氏は、「インターネットは一つしかない。モバイルインターネットと分けて考えるのは間違っている」とした上で、自社の沿革をネットの歴史とともに紹介した。同社は2000年前半からWeb2.0的な機能をいくつも模索してきたが、結局そのトレンドは米国に先をこされてしまったことを悔しがっていた。2000年というかなり早いタイミングにIPOを実現してきたネット企業として、ITバブルの崩壊など数々の試練を乗り越えてきたようだ。今後の展開としてはブログ、ミニブログをモバイルに対応させながら機能強化を実現するとともに、フラッシュマーケティングや不動産売買サイトなどのさまざまなジャンルにビジネスを広げていくようである。

カンファレンスに出席した感想だが、中国のモバイル系の企業はあまりイノベーションに熱さがないように思われた。話がどうしてもビジネスモデルやサービスの話にいきがちである。なぜなら、中国はネット人口5億人、モバイルネット人口3億人、そしてスマートフォンに対しても既に6000万〜7000万というユーザーを抱えているからであり、タイミングとスピード、そしてオペレーションを間違わなければ、米国を中心とするサービスをコピーすればイノベーションなしに十分商売がたちあがるからである。日本も90年代後半はまさにそんな状況だったかもしれないが、中国の政治的に閉鎖的なビジネス環境ではさらにそれが強く感じられるようだ。カンファレンスではSkypeの創業者のプレゼンもあったが、彼らが市場の小さなスウェーデンデンマークから世界を目指したのとは対照的であると思う。


今回のイベントはまさにスマートフォン一色である。アプリがなければはじまらないというような話である。しかし、その中で考えさせられたのはじゃあWebはダメなのかということである。日本でもJigブラウザなどがブレイクする前にアプリ時代に突入してしまって、このあたりの検証は今後必要ではないかと思われる。前述のアリババのCEOのWebサービスを支持する考え方に加え、もう1人UCwebという2億ユーザーにブラウザを提供している会社のCEO、YU Yongfu氏の「ブラウザは多くの開発者に共通のプラットフォームを提供している最大のアプリである」という言葉は印象的だった。アプリのビジネスが注目される中で、今どのような開発に取り組むべきか悩む企業も多いと思うが、私は米国の通信改革でATTが分割されたときのことを思い出す。ユーザーメリットのための競争を促進するために会社を分割されたキャリアは、低収益で国際競争力を失っていく。そして何年か後に本来のユーザー価値を目指してM&Aで強い企業を目指していくのである。スマートフォンは多くのアプリ開発というビジネスを生み出したが、アプリ単体のビジネスでは最後は勝てないようにも思われる。そうした小さな力を束ねた大きな機会を生み出すプラットフォームビジネスを作り出さなければならない。


そこでGREEDeNAもプラットフォームビジネスで世界戦略を打ち出すわけである。日本企業としては、検索やSNS、ミニブログで米社に世界のプラットフォームを持っていかれているだけに、このあたりでひとつでも食い込みたいところである。2社が世界的に成功するかどうかはわからない。けれども、私たち日本人にもしチャンスがあるとするならば、まちがいなくスマートフォン上のプラットフォームビジネスだろう。その中でもゲームや電子書籍、ビデオ分野なのではないか。なぜなら日本は腐っても世界に先駆けて誕生したケータイ大国であり、私たちユーザーの消費体験が大きな資産として残っているからである。(Twiiter:@ankeiy)