こだまでしょうか。いいえ、いつでも。

首相を中心に政府幹部、電力会社幹部、著名国立大学教授たちが緊張の面持で官邸の一室に集まっていた。


首相が重い口を開いた。「みなさん、本日集まっていただいたのは、私たちの広報戦略についてです。みなさんには日々原発の件でご苦労いただいていますが、原発は安全だ、問題ないと国民に伝えても、国民はそんなことはない。危険だ。政府は嘘つきだと、まったく逆効果になっています。そこで本日は、D社から広報アドバイザーの方をお招きして、これからの我々の対応にアドバイスいただこうと思いました。」


紹介されたD社のアドバイザーが話はじめた。
「みなさん、広報の基本は正直に真実を伝えることです。みなさんはどうしてもまず自分たちの都合の悪い情報や言い方を避け、後から真実が判明するという悪循環に陥っています。まずしっかりと真実を伝えてください。」


この場に集まった人々の中で、このアドバイザーの意見に異をとなるものはなかった。


このミーティングの後、定例の記者会見で官房長官が口火を切った。「国民の皆さん、原発は本当は危険な状態です。とりあえず30キロまで退避としていますが、最悪の場合、東京にも健康に害がある放射能が到達する可能性があります。逃げられる人は脱出してください。」


するとすぐさま主要メディアやネット上の著名人が反応した。そして世論はこんな感じに傾いた「政府は危険だと伝えて、もし万が一のことがあった場合の責任逃れをしているのではないか。政府の言うことは信用できない。万が一の可能性は限りなく低い。本当は安全なのだ。私たちは東京を捨てない。」


政府は国民の批判を受けてあせった。「国民が安全だと言い出したのだからやはり安全だと伝えるべきだ」という意見が閣内で大勢を占めた。再び首相が「国民のみなさん、本当は安全です。問題ありません。私たちは全力で対応しています」と声明を発表した。

すると世論は今度は「やっぱり危険なんだ、政府は何かを隠している。早く東京を出よう。」という論調に傾いた。


こだまでしょうか?
いいえ、いつでも。

真実を伝えるべきでしょうか?
いいえ、信用されないと。