ニトリ創業者、似鳥昭雄さんに学ぶビジョンの力について

ニトリは、すでに誰でも知っているお店だと思います。ぼくも若いころからよく利用させてもらいました。特に、町田の16号線沿いのお店には、まだ子供たちが小さかったころよく行ったもんです。記憶にあるだけでもキッチンに置くサイドボード、子供のベッド、ソファ、学習机なんかを買いましたかね。

ここ10年くらいは、家具の巨人IKEAが参入してきて「ああ、ニトリもこれから大変なのかな」くらいに思っていたんですが、全然、ニトリの勢いが衰えず、逆にIKEAの方が弱ってきている感じじゃないですか。大塚家具なんて迷走している感じですし。日本の家具市場を見ると、ほんとニトリは強いですよね。と、業績をちらっと調べてみると、2016年2月期の売上高は4,581億円、経常利益で750億円です。この期まで29期連続増収増益を続けていて、この記録は上場企業の中で堂々の1位だそうです。2016年1月23日の終値ニトリホールディングスの株価を見ましても、時価総額1兆4,795億円、4,000社弱の上場企業の中で88位です。すごいですね。(ちなみに世界のIKEAはFY2016で売上高約4兆2000億円、ニトリの10倍の規模です)

この企業を一代で築き上げたのが、創業者であり、現在も会長職にある「似鳥昭雄さん」です。パチパチパチ!今回はこのブログで似鳥さんがいかにすごい人かということを紹介しようと思いますが、ぼくもそんなすごい人だとは、2015年に話題になった日経新聞私の履歴書を読むまでまったく知らなかったわけです。それで似鳥さんの著作をいろいろ読ませていただいて、これはとんでもない人だという結論に至ったわけです。

小売流通にはいろいろキャラが立っているすごい経営者がたくさんいるんですが、たとえばユニクロの柳井さんとか。セブンの鈴木さんとか。ぼくはどなたとも会ったことないのにこんなところで印象でいうのは非常に恐縮なんですが、柳井さんのイメージって学校の先生のようで、それもかなり厳しい先生って感じで。成績の悪い生徒をビシバシとしかっていて。成績の悪い生徒は退学!おお厳しい。セブンイレブンを作った鈴木さんは村長さんのようなイメージで、次々と面白いアイディアで村祭りを盛り上げてくれるような、いろんな具の入ったおにぎりを差し入れてくれるような感じですが、似鳥昭雄さんのイメージは一言でいうと村の片隅に住んでいる変人おじさんですwこの3人をわかりやすくレンジャーシリーズに例えると、柳井さんは赤レンジャーで、鈴木さんはレンジャーが集まる喫茶店のマスターで、似鳥さんは間違いなく黄レンジャーです。って話がそれました。そんなことを書きたいわけではありません。

まず、似鳥さんは「自分は頭が悪いけど、こんなバカでもできたんだから、誰でもできる」とみんなを元気づけてくれます。普通は「またまた、謙遜して」とか「自分のことバカとか言っておきながら本当はバカじゃないんでしょ?」とか、思うわけですが、著書で経歴を確認すると本当に頭悪いかもしれないという「とてつもない説得力」がありますw

ちなみに、小学校と中学校は成績表は1と2ばかりで、しかもいじめられっ子でもあったそうです。高校は受験したところ全部落ちて、最後に落ちた高校の校長に母親が米俵を届けて裏口入学をし、高校のテストはカンニングで乗り越え、大学は試験にはすべて落ちて、短大に替え玉受験で入ったそうです。なべやかんもびっくりの展開ですw

こんな似鳥さんはたまたま生活のために家具屋を始めます。家具屋をはじめた理由は近所に家具屋がなかったからというようなイージーなものです。しかし、似鳥さんは対人恐怖症だそうで、まったく接客がダメでいつ倒産するかというような状態だったそうですが、そんな似鳥さんに転機が訪れます。

それが、もう破産寸前まで追い込まれたときに一発奮起して参加した家具業界の米国視察ツアーです。似鳥さんはそこでアメリカ人の生活の豊かさやチェーンストアのすごさを思い知ります。その時のことを振り返って「他の参加者は、米国と日本は違うから、米国の良いところだけつまみ食いするぐらいの気持ちでいたと思いますが、私は米国で見たものすべてを日本で実現したいと思いました」と語っています。ツアー参加者の中で似鳥さんにだけにカミナリが落ちたわけですw

この米国ツアーで似鳥さんは生きる目的を手に入れました。それまでは生活のため、お金儲けのために、家具屋をやろうと思っていたわけですが、「日本人にアメリカ人と同じ生活をさせることができたら、どんなにみんな喜ぶだろう、感謝されるだろう」ということを具体的にイメージできたわけですね。27歳の時だそうです。
こういう話、ピンと来る人とこない人がいると思いますが、なんか電気が身体を走り抜け、自分が取り組めばわくわくするような未来が実現するということが自分だけに理解できるっていう体験、ぼくにもありますが、これはもうすごいことなんですよね。どうすればそこにたどり着くことができるかなんてまったくわからないのに、もうそこに行きたくてしかたないような。みんなにそのイメージを話したくていてもたってもいられないような。そんな瞬間ですね。

しかし、世の中は非情です。人生の目的を手に入れてもその方法はわからないわけです。そこからまた苦しみが始まるわけです。ところが、がんばる人にはまたまた転機が訪れます。それがペガサスクラブへの入会です。ユニコーンじゃなくてペガサスですwこれは渥美俊一さんという方が主催されているチェーンストアの勉強会ですね。渥美さんという方は、日本にチェーンストア理論を紹介したすごい人で、日本の小売流通の経営者はほとんどこの方に指導を受けています。渥美さんの著書を読むとわかりますが、なんかこうきちっとした哲学者のような方で、経営者のメンターでもあるわけです。この渥美さんが似鳥さんに言ったのが、「ロマン」と「ビジョン」を持ちなさいということです。

(似鳥さんは言います)
「運はあきらめない人に味方する」

この「ロマン」というのは「日本人を米国人と同じような豊かな生活に導く」という既に似鳥さんが手に入れている生きる目的のことです。それで「ビジョン」というのは、その目的を達成するための具体的な数値目標というわけです。

渥美さんの指導を受けて、似鳥さんは第1期30年計画を立てます。それが「30年間で1000店舗を実現し、売上高を1000億円にする」というもです。1972年のことだそうです。それで、この30年計画がどうなったか?

1年遅れの2003年、似鳥さん59歳のときに達成するんですよ。いやーほんとにすごいことですよね。30年ですよ。30年はただ流れただけじゃなく、財務や採用の困難、業界の圧力、乗っ取りなど似鳥さんは苦闘を重ねるんですが、そのあたりはぜひ似鳥さんの著書を読んでいただくとして、ここでお伝えしたいのは「日本人を米国人のような豊かな生活に導く」というロマン(夢)を手に入れた男の強さですよ。そして具体的な目標(ビジョン)を数値化し実現した男の執念ですよ。365日24時間ずっとこのことを考え続けたそうです。人生をかけた戦いのわけですよね。ずっと村の変人おじさんとしてw

それでこの30年計画を達成して、次はどうしたと思いますか?今度は第2期30年計画を立てるわけですよ。それは「2032年に3000店舗、売上高を3兆円にする」というものです。また新たに次の30年後を夢見るわけです。似鳥さんの車のナンバープレートは「品川3000」だそうです。トイレにも寝室の天井にも目標数値が貼ってあるそうです。
この数字を絶対に忘れないために。って子供かw

ちょっと話がずれますが、アマゾンの創業者ベゾスさんも2000年くらいのインタビューで、世界中で利用できる顧客満足度の高いEコマースで新しい需要を生み出すという話をしていて、記者からいつぐらいに実現できると思いますか?と聞かれて30年くらいかかるという話をしているんですよね。たぶんベゾスさんの中にも明確にイメージできる似鳥さん的な「ロマン」があるのだと思います。(これはみんなに見えるものではないですね)

だいぶ長くなってしまいましたwここらで話を強引に終わりにもっていきタイと思いますが。
似鳥さんは、ニトリのスタッフに向けて「成功の5原則」を掲げています。

1.ロマン(志)
2.ビジョン
3.意欲
4.執念
5.好奇心

ざっと解説します。「ロマン(志)」と「ビジョン」は説明してきたとおりです。生きる目的、事業をやる目的とそれを数値化した目標です。次に「意欲」はできそうもないことに挑戦することだそうです。まさに30年計画のビジョンを支える言葉ですよね。そして「執念」は目標を達成するまで決してあきらめないこと。最後に「好奇心」は常に新しいものを発見しようとすること。だそうです。

いずれの言葉も言葉にすると単なる言葉ですが、意味をかみしめるとすごく重い言葉です。当たり前のことではありますが、やはりこの言葉の深さを理解して、本気で行動しないと結果が伴わないということでしょうね。

現在のニトリの好業績は、まさに5原則に支えられているといってもいいと思います。1994年にプライベートブランドの海外での製造を開始するんですが、中国を拠点にすることが当たり前のような時代に、東南アジアに工場をたて現地で教育し製品の組み立てだけでなく、部品まで自分たちで作り、コストを下げ、業界の常識を超えるような品質を生み出すことを実現したことが現在の大きな競争力となっています。最近、ちょくちょくニュースになりますが、製造だけでなく物流システムや倉庫なども他社に先駆けて様々な工夫をしてコスト削減に励んでいるわけです。まさに似鳥さんが実践してきた工夫の塊のような企業です。

ニトリがこれからはじまるであろうEコマース化の波の中で、アマゾンとどう闘い第2期30年計画を達成するのかほんとうに楽しみなんですが、そんなことをさておいて経営にとって金儲け以外の「なぜその仕事に取り組むのか」そしてそれを「いつまでにどんなか形で達成するのか」というビジョンがいかに大切なのかということが今のニトリからも痛いほど伝わってきます。事業をスタートするきっかけは、金儲けのため、名声のため、偉くなるためという下世話な理由でも一向にかまわないと思いますが、どこかでこの似鳥さんのようなロマンを、哲学を、手に入れないと経営を長く続けることなんてできないんだなと実感させられます。

誰しも仕事には人生の中で多くの時間を費やします。生きる目的とイコールになる人もたくさんいると思います。

「なぜ、自分はこの仕事にとり組むのか」

だからこそ、この思い問いかけを忘れてはいけないのだと思います。もしも手に入らなければ最後の最後までもがき続けるしかないんだと思います。

おわりに似鳥さんだから言える素晴らしい言葉をみなさんに贈りましょう。

「鈍くても遅くても、とにかく前に進め」


@ankeiy


<参考文献>
ニトリ成功の5原則(朝日新聞出版)
運は創るもの(日本経済新聞出版)
いずれも著者は似鳥昭雄さん

21世紀のチェーンストア(実務教育出版)
著者は渥美俊一さん