環境が人を作る、人が環境を作るという件について

何年か前に、ぼくの先輩が「肺がん」になってしまって、まあ若いときからタバコと酒がんがんでしたからやっぱりって感じもするような遊び大好きな人なんですけど、もちろん今も、片肺がなくなっても元気に飲み歩いているんですけどねw。その先輩が癌になったときに、高3の息子さんがいてね。それまで反発して、学校行かなかったり、髪の毛青くして相当やんちゃしていたらしんだけど、父親が「がん」で死ぬかもしれないってなったときからね。「突然、俺医者になる!」って言いだして、猛勉強し始めて、浪人して、難関校の医学部入って、今や立派なお医者さんになっているんですよね。聞くところによると救命で寝る時間もないらしいんだけど、先輩は命を救うためにがんばっている息子のことをすごく誇らしげに話してくれました。

きっかけと環境って違うと思うんですよ。モノゴトには必ずきっかけがあって、例えば華やかなアイドルをTVで観て、アイドルを目指すようになった。立派な経営者の本を読んで経営者になりたいと思った。これみんなきっかけだと思うんですが、そこから先、本当に華やかなアイドルになれるのか?、立派な経営者になれるのか?っていうのは、その人の持って生まれた環境に由来すると思うんですよね。「きっかけ」はそこらじゅうに転がっていると思うんですが、環境ってのはその人にひとつしかない。世界に一つしかないアイデンティティを生み出すわけですよね。父親が癌になって医者を目指す子供がどんな環境で育ってきたのかはよくわかりませんが、そうさせる何かがその子の環境にあったわけですよね。きっと。

なんで、こんな当たり前の話をするかっていうと、最近、ほとほと、人間を成長させるっていうか、生きさせる力っていうのは環境にあるんだなあと痛感しているからですよ。人間の成長には教育が大切だっていうことで知識詰め込んだり、教え方がどうだこうだとかいろんなところで議論していますが、環境の力はあらゆる教育手段を超越しているとあらためて思うんですよね。

この前、信州大学の学長が、「スマホやめますか?信大やめますか?」って話題になっていましたけど、スマホやめることで変わる環境なんて大したことないと思うんですよ。Lineができない?ゲームができない?人を生かす環境としてはどうでもいい話のように思いました。それより、信大やめて全く違う場所でまったく違うことをする環境の選択もある、そういう観点から、そのもう一つの環境に負けない覚悟で大学で環境を作ってくださいというくらいのほうが共感できるわけです。ぼく的には。

日経新聞の「私の履歴書」でニトリの創業者の壮絶な人生が話題になっていますが、貧困、虐待、いじめ、今なら一つでも大騒ぎなりそうな社会問題のデパートのような生い立ちを持つニトリの創業者が、歯を食いしばって生きていく。その中で生まれたコンプレックス、反骨心や様々な生きぬくための工夫が、急成長していくニトリの源泉になって名経営者になっていくんだと思いますが、このニトリの創業者の生まれ育った環境はこの人だけのもので、誰も手に入れることはできないわけです。そして確実に言えるのは、この環境がなければ今のニトリはなく、創業者がゼロから築いた数千億円の資産もあり得なかったわけです。

もうひとつ、先日孫さんが留学する日本人に贈ったスピーチを動画で観ました。
まだの人は見てください。これです。⇒トビタテ!留学JAPAN 日本代表プログラム 第1期派遣留学生壮行会 支援企業からの激励メッセージ ソフトバンク株式会社 代表取締役社長 孫正義様:文部科学省 - YouTube
話を要約すると、孫さんのお爺さんが韓国から船底に隠れて日本に渡り、勝手にJRの土地に住み着く、そこで生きていくためのいろんな商売をする、貧困、いじめ、孫少年を襲う数々の苦難。そんな中で父親が倒れる。高校生の兄は、学校を止めて家族を支える決意をする、そんな中で孫さんは米国留学をする。「今は兄貴頼む。将来は俺が支えるから」という覚悟のもとに。孫さん家族が住んでいた場所には番地がない。「無番地」。人の住む場所じゃないからだ。孫さんは今でも自分に問いかける。中国、韓国、日本、俺のアイデンティティとは何だ?グローバルとは?まあ、話を聞くだけで、とんでもない環境をくぐり抜けてきているわけですよ。
ぼくも孫さんを経営者としてものすごく尊敬しているんですけど、どう考えてもいま日本で一番のアントレプレナーであり、経営者であることは間違いないですよね。憧れている人も多いと思います。俺もあんな経営者になってみたい?俺も孫さんと同じようなグローバルな企業を作ってみたい。イノベーションを起こしてみたい。けれども、あの孫さんの壮絶な環境から生まれている孫さんを動かしていくエネルギーは残念ながら、そう思う人の大半には手に入れることはできません。真似できるのはハゲくらいですw

テスラのイーロン・マスク、ペイパルマフィアw、こうしたアントレプレナーが日本でもヒーロー的に扱われますし、よし日本でもそんなイノベーションをと思う人もいるでしょう。でも、残念ながらアメリカという国で生まれ、どんな環境で育ったかわからないですけど、世界を変えなきゃいけないというか世界は俺たちが動かしているという風土の中で生活してきた人、ヒューマニズム、宗教そんな環境をぼくたち日本人は絶対手に入れられないんですよね。つまり、作り出すモチベーションの源泉がまったく違うわけです。「火星に移住しなければ人類の存続はない」などという日本人をみたこともありませんw

最近気づいたんですが、「きっかけ」を探すことに一生懸命になっていて、環境を作ることを怠っている人って結構多いんだなあということです。生活や仕事で規則やモラルにがんじがらめになりながら、どんなに「イノベーションを起こす方法」という本を読んでも、どんなに偉い人に会って良い話を聞いても、決してイノベーションを起きないわけです。けれどもそういう本を読むことで、人と会うことで自分が変わるきっかけをつかみたいと思う。気持ちはわかりますよ。けれども、きっかけをどんな積み重ねてもあくまできっかけ、環境はもっと根の深いところにあるんです。そして、環境からしか未来の自分は生まれないということです。

とりとめのない話になってしまいましたが、ぼくも仕事がら就活生と話す機会がたくさんあるんですけどね。就活も大企業とかベンチャーとかどこに就職しても生きていくために対して差はないと思うんですよ。でもね。重要なのは「環境」です。もし苦労しそうな環境だからやめる。と、考えるなら思いとどまった方がいいかもしれません。厳しい環境は未来のあなたを作る大切なリソースだからです。まあ、「苦労は買ってでもしろ」なんて言うと、おやじ臭が強烈ですけど、実際に、未来で何かすごいことをしたいと考えるなら、今はわからないけどその源泉となるエネルギーを手にいれたいと思うなら、綺麗でかっこよくて優しい先輩に囲まれて長く勤められるような会社は選ぶべきではないでしょうねw

ぼくたちは毎日仕事をしています。この仕事もぼくたちの未来を作る環境の一つです。無難に、失敗のないように、減点されないように、誰にも怒られませんように。あー今日も無事に終わった。この環境から未来の自分を作り出すエネルギーが生まれるかどうか、考えてみてください。120パーセント全力で上司や顧客にうざがられ、怒られ、それでも自分の仕事の目標を忘れずに愚直に突き進む、社内では他部署と揉める。もうこんな会社いたくないと苦しむ。でも悔しいから高い目標を掲げる。健康な心と肉体を持っている限りは、厳しい環境を作り出せば作り出すほど、それは未来のエネルギーになるはずです。

まあ、世の中にはぬるま湯好きな人も大勢いますから、そういう人はぬるま湯を転々とする技術を磨けばいいと思いますが。

残念ながらというか、当たり前ですが、ぼくらは生まれも場所も、時代も選べません。そこから生まれる環境は動かしようがなく、背伸びをすることもできません。ニトリの創業者にも、孫さんにもなれません。けれども大人になった今は自分で環境は選べます。昔、アイデンティティの経済学という本を読みました。行動経済学の本です。その本の中で印象的だったのは、「行動は無意識の規範で決まる」という言葉です。そう、未来で何をやるのかというのはぼくたちが環境の中で育てた無意識そのものだからです。

また、まじめかw

@ankeiy