「過去との競合」から見える仕事観について

先日、ラジオを聴いていたら作家の平野啓一郎さんが「小説の電子化って大変なんです。ぼくの作品のライバルがトルストイになったりするんですよ」とか話していました。どういうことかというと、ネット社会以前は当然ですが小説は印刷物としての「本」の形でしか存在しなかったので、ある程度時間が経つと、絶版になったり、当然物理的に流通量が減ってきて、その本と読者が出会う機会が損なわれてくるわけです。それに代わって新しい小説家が登場し、読者がその人の作品にふれる機会が増えることで、新しい小説家は経済的に自立していくわけですが、最近はそれが難しくなっているというわけです。つまり過去の作品がどんどんデジタル化されるために、過去の作家と現在の作家の作品が同列化され、新しい小説家にとって過去の人も十分ライバルになりうる状況が生まれている。平野さんの先の発言はそういう文脈から発っせられたものでした。

一見、デジタル化で市場が広がり、翻訳の機会を得れば世界にまで届きそうな電子書籍市場で「過去との競合」という新しい問題が生まれているわけですが、これは小説だけの話ではありません。音楽や映像もまったく同じ状況だと思われ、新しい楽曲が過去の名曲と競合状況になっていることは間違いないでしょう。Youtubeの隆盛を見るまでもなく、ハードディスクの低コスト化やクラウド技術の進歩、インターネット回線の高速化がこうした事態に拍車をかけているわけですが、この流れはもう誰も止めることはできません。

いわゆるコンテンツの過去との競合は、ネット上のコンテンツ全体の問題とも捉えることができます。ある意味、近代社会の情報ビジネスは、(古代ギリシャ時代から進歩などしていないw)人間の本質を捉えなおすことで商売をしてきた側面があり、アーカイブ化されることは必ずしも都合の良いことばかりじゃないわけです。コピーされて拡散されてしまうことも含めこれはもうネットの宿命と言わざるを得ませんが「情報コンテンツ」そのもので商売することは今後どんどん厳しさを増していくのではないでしょうか。この世界を突き詰めると、ベンヤミンもびっくりの複製時代からは想像もできないようなとんでもない価値のフラット化がおきているのではないでしょうか。(個人がやるとか企業がやるとかそんな垣根などは当の昔になくなっていますw)

そんな視点で見れば、現在のエンターティメント業界の動きはかなり合点のいくものがいくつもあります。例えば、国内でのAKB的なコンテンツ販売方法は、過去との競合問題を回避するため、常に自分たちがライブを行うホームステージを持ち、イベントを重要視する、つまりネットはあくまでもイベントへの集客告知手段として機能させ、音楽のデリバリやデジタル化のビジネスをできるだけ回避するとか、ちょっと残念ニュースが流れているw仮面アイドルなんかもさらに顔すらデジタル化をさけることでリアルなイベントや音楽流通を生み出すとかね。

米国の音楽市場なんていうのは、コンテンツごとの販売を既に放棄してしまってw、パンドラなんかは月額会員制で音楽を聴くようにしていますけど、これなどはいち早く過去との競合問題と決別するために「○○の音楽を聴く」という価値を「音楽を聴く時間」という価値にシフトさせて成功させているわけです。映像も時間売りの流れは止められませんよね。

デジタルコンテンツの流通という誰もが夢をみたビッグビジネスが逆にクリエイターの首を絞めるなんて結果になってしまってはそもそもの良質なコンテンツなど生まれませんし、いずれ産業として成り立たなくなってしまいます。そこでがぜん注目されるのが、ネットそのものは、無料の情報流通(つまり広告ですねw)として利用して、リアルなイベントで稼ぐというビジネスモデルです。ガガ様とかティラースイフトとか米国のミュージシャンなんかはまさにそれですし、DJが想像を超える巨額の収入を得ている現実もこのあたりに秘密がありそうです。

まあ、未だにネットは「流通革命だ!」とかいって、コンテンツをネットで販売することに懸命になっている方もいらっしゃいますし、それをまったく否定するつもりありませんが、やはり時代はSNSやブログを情報拡散手段として利用して、リアルな現場でビジネスにつなげるという方向性が見えてきているように思います。ちょっと、視点を変えると、ぼくはSNS時代の恩恵を一番享受している企業の一つにオリエンタルランドがあると思うんですが、ディズニーランドのようなそこにしかない物語が提供できる特殊な場所を持ち、ネットを活用して集客につなげる。だってディズニーランドに行った人は、フェィスブックで楽しい自分たちの家族の物語をつぶやくでしょうし、情報が拡散するための材料なんてゴロゴロ転がっているわけです。USJやハウステンボスのHISなんかもまったく同じ理由で業績が上向いているんだと思います。ネットに国境はありませんしね。最近映画館も映像と一緒に椅子が動いたり風が吹いたりするような設備投資が進んでいるようですが、そこにいかないと体験できない場所づくりの方向は間違っていないと思います。

先日、中学生と話をする機会があって「将来有望な職業って何ですか?」なんて質問されて、商社マンとか銀行員とか言おうかどうかちょっと困ったんですけどw、ぼくはイベントプロデューサーという職種を上げました。モノよりコトっていう大きな流れもあるんですが、音楽ライブを作るとかテーマパークを作るとか美術展を作るとか、なんでもいいんですが、そこにいかないと体験できないものをしっかりとビジネスに落とし込める(もちろんネットもフル活用する)スキルを身につけたら将来かなりイケてるんじゃないかと思います。

もっと言うならそのイベントが「サイトスペシフィック」なものであればさらに素晴らしいと思います。ぼくはお会いしたことないんですが、越後妻有の「大地の芸術祭」をプロデュースした北川フラムさんなんか時代の先端を行かれているんじゃないでしょうか。よくわかりませんがw

まあ、つらつらと書きましたが、もしこの文章を就活生が読んだらぜひうちの会社に面接に来てください。ネットを活用した集客について徹底的に修行ができる環境をご用意してお待ちしておりますw

@ankeiy