バフェットからの僕への手紙

自分の頭で考える経営---この当たり前のことが今どれだけできているのだろう。ウォーレン・バフェットの本を読んでそんな疑問が頭をもたげてきた。だからブログを書こうと思った。そのことをもう少し考えるために。

20年ほど前、ぼくがはじめて株式投資を始めたとき、すでにバフェットはビルゲイツに次ぐ世界の富豪であり、投資の神様だった。ぼくは書店にある彼に関する書籍をむさぼり読んだ。けれども、そのとき頭の中に残った言葉は「長期投資」と「自分の理解できる企業に投資する」っていうことぐらいだった。そんなことがわかっても株式投資で儲かるわけはない。人生は短い(笑)。実際、ぼくの株式投資も短期売買による利ザヤ狙いだった(笑)。今回、彼がバークシャー・ハサウェイという彼の経営する会社の株主にあてた手紙の翻訳本をたまたま手にとった。そして、彼がどんな思いで今まで経営してきたのか、経営するための手段として投資をどのように利用してきたのかということをよく理解できた。興味深い内容だった。

ぼくが株式投資をはじめた理由は明確だ。「金持ちになれるかもしれない」と思ったからだ。間違いなく邪心だ(笑)。当時、日本がバブル崩壊でふさぎこむ中、米国ではインターネットというテーマを武器にまさにバブルが起ころうとしていた。株式投資をすれば金持ちになれる。そんな幻想を持つには十分な環境だった。そんな中で、やがてぼくは「他人の会社に投資するより自分に投資する方がはるかに儲かる」と考えるようになる。米国ITバブルの中で、多くの若者がIPO長者となっている現実を目の前に突き付けられたからだ。それはまるで20世紀の最後に流行した熱病のようだった。

ぼくは1999年に起業した。起業したことが正解だったのか、不正解だったのか今をもって判断はつかない。この15年を通して、多くのものを得たけど、たぶん多くのものを失っていると思うからだ。いずれにしても15年の月日が流れた。そして今も経営者という役割で仕事をしている。起業した会社が15年も続いているのはすごくラッキーなことだと思う。多くの企業がなくなっていくのを目の前で目撃してきたからだ。会社が生き残っているのは、ぼくに特殊な能力があったわけでも、人より何倍も努力してきたわけでもない。ただ、企業を始めたときから「終わりたくない」と思う気持ちが人一倍つよかっただけだ。だから、終わらないためには成長しかないと考え続けてきた。どんなことでも始まりがあれば、必ず終わりがある。けれども、企業は続けなければならない。終わりは必ずやってくるのにそれに精一杯抵抗しなければらないのだ。死ねないのだ。ときどき、経営とは無茶苦茶な仕事だと思う。

バフェットの経営は、まさに成長し続ける企業への挑戦だと思う。1964年(これはたまたま僕の生まれた年)に経営しはじめた「バークシャーハザウェイ株」の価値は50年を経ていまやその価値1万倍に迫る勢いだ。毎年複利で20%近い運用をしてきたことになる。孫さんが14年前にアリババへ投資した20億円、今回のアリババ上場で6兆円〜8兆円の価値になると言われているが、そんな宝くじのような投資リターンでもまだ3000倍〜4000倍。バフェットの経営手法がいかにずば抜けているかがわかる。とにかくすごい。

バフェットには「どんなことがあっても会社を終わらせない」という覚悟と準備がある。それはバークシャー・ハサウェイの主力が保険事業ということで、契約者への保険金支払いの責務ということにもつながると思うが、周りからどんな保守的と思われても、2兆円を超える潤沢な現金同等物を常に保有し、無理な借入金など一切しない。もっと投資した方が儲かるかもしれないが、どんなに機会損失が発生しようとも安全を最優先とする徹底した覚悟だ。

バフェットが大切にするのは、企業の「内在価値」だ。その企業が本来生み出す利益に紐づけられた価値だ。株式市場でつけられた「株式価値」とは全く違うと考える。つまり多くの上場経営者が気にする株価や時価総額の数字などまったく関係ない。それどころか、自分が経営するバークシャー・ハサウェイの株価が彼の考える内在価値と大きくかい離すると、警告を出したりするのだ。

通常、上場会社の経営者はIR活動と称して株価を上げる努力をする。なぜそんなことをするのか。「そんなこと決まっている」と何も考えないで行動している経営者も多いと思う。取り巻きの金融関係者も「株価を上げましょう」とまくし立てる。経営者にとって株価が上がるとストックオプションで利益が出るとか資金調達(企業買収)が有利にできるか、金融機関にとっては取引に介在する手数料が多くなるなどの実利もあるが、なんとなく社会から「株価が高いと優れた経営者と評価される」と考えている経営者も必ずいる(笑)。バフェットは真っ向からその考え方を否定する。株価は本来その企業が生み出す将来利益の価値にイコールであるべきだと考える。

IRといえば、株主数を増やすことや株式の流動性を高めることも重要な目的とされる。しかし、バフェットはそうした単純な考え方にも疑問を呈する。流動性なんてなくてもかまわないというのである。もっと下世話に言えば、「短期の利ザヤを狙うような投資家は入ってくるな」ということだ。この考え方に基づいて、バフェットはずっと変な株主を増やしてしまうような株式分割を行っていない。(バークシャー・ハサウェイに連動する金融商品を阻止するためや、相続のために種類株を発行し取引価格を下げているようなことはしている)

自己株買いについても極めて慎重だ。バークシャー・ハサウェイは企業の内在価値に等しいあるいは下回るような株価になり、内部資金が200億ドルを上回っているようなときしか行わないと明言している。自己株買いが一株あたりの利益を上げる有効な手段であるということは間違いない。けれども、上場会社の経営者はIRの一環として、内在価値など考えずに、株価を支える、もしくは上昇させる目論見をもって自己株買いをする。そうしうた目先の株主還元を完全否定しているのだ。

配当政策についても極めて慎重だ。配当する資金を再投資に回すことで株主にさらなる利益をもたらせると考えれば配当はしない。配当した方が株主利益にかなえば配当するということだ。どこかの上場企業のように利益の○○%を配当目標にするなどというバカげた決意表明はしない(笑)。なぜなら、状況によって配当するべきかしないべきかなどということは刻々と変わるからだ。

ストックオプションについても極めて否定的だ。なぜならストックオプションを発行することで、株価を上げるために本来の株主利益を毀損するような馬鹿げた行動を経営者が取ることが多くなると考えるからだ。どこかの上場企業のようにストックオプションの行使条件に株価を設定するようなアホの上塗りになるようなことを決してするなということだ。

集中投資、経営者の資質やルックスルー利益などなど、バフェットが経営で大切と考えるスタンスはまだまだたくさんある。が、ブログが長くなってしまうのでこの辺でやめる。話をまとめると、今の株式市場や経営者の間で「良いこと」とされて「当たり前に行われていること」に対してハッとさせられることがたくさんある。というか、一つ一つのアクションに対して、自分の頭でしっかり考え抜いた結果、そうしているということがよくわかる。そこで私たち経営者に質問である。

「果たして自分の頭で考えて経営しているのだろうか?」

経営指南書の言いなりなっていないだろうか?ベンチャーキャピタルの言いなりになっていないだろうか?証券会社の言いなりになっていないだろうか?一部の声の大きい株主のいいなりになっていないだろうか?開示や株主総会という様式にとらわれていないだろうか?

企業は株主がオーナーである。その株主に還元する利益を最大にすること。それが経営者の仕事である。プロの経営者?どんな人がプロだか知らないが(笑)、やはり自分の頭でしっかりと考えた経営者は尊敬できる。それが正しいのか間違っているのかそれはよくわからないが、自分の頭で考えている人はすごい。

経営者の評価は結果でしかない。プロセスも言い訳も関係ない。その厳しさを自分の頭で受け止めたい。

@ankeiy

内在価値に等しいあるいはそれ以下の金額で企業に投資できる機会は数少ない。だから、しっかりと準備をして下落相場を待つのだ。だから、長期投資なのだ。

「バフェットからの手紙(第3版)」(パンローリング)