「価格は顧客に決めさせろ」恐るべきアマゾンのDNA。

最近、アマゾンが話題になることが多いので、アマゾンっていう企業のことを少し考えていたんですが、この企業の中心にあるものがなんとなくわかったような気がしたので、こちらのブログで紹介させてただきます。

ぼくも昔、こんな記事(2001年にAmazon.comの株を100万円分買っていたら、いくら儲かったか?)を書いていますが、アマゾンってのは現在時価総額18兆円、世界でも有数の企業に育っています。世界最大の小売業のwal-mart時価総額はいま25兆円、あと何年かしたらこれも超えてくるかもしれません。でも、どこか普通の企業と違います。それはこの会社はまだほとんど儲かっていないということなんです。利益を出していません。何で利益を出していない会社がこれほどまでに評価されているんでしょうか?株主は催眠術か何かにかかっているのでしょうか。

まあ、CEOのジェフ・ベゾス氏が株式市場の「株価が上昇していれば利益なんか関係なく企業価値は上がる」という仕組みを知り尽くして、それを上手に利用しているということもあるでしょう。彼の示すビジョンが魅力的で、ステークホルダーが夢を見ているということもあるでしょう。

けれども、なぜそんなことがこのアマゾンっていう会社だけに実現できているのか、他の企業で同じことはできないのか?そんな疑問がどうしても湧いてきます。この企業を利益が出ないのに大企業にさせているDNAは何なのか?ちょっと考えてみました。

ぼくのたどり着いた結論は「価格を顧客に決めさせる」という考え方でした。よく顧客志向とか「お客様のために」とか抽象的に語る企業はありますが、アマゾンという企業の中には明確に「価格は顧客に決めてもらわないといけない」という哲学があるのではないか。消費者が最も喜ぶサービスというのは、それを購入するとき、自分の納得する値段で購入できることじゃないか。その価格から物語を考えようという、もしかもしたらジェフ・ベゾス氏やアマゾンで働く人たちさえ気づいていないうちに考えてしまうようなフォースがはたらいているんじゃないかということです。

でも、価格を顧客に決めてもらうなんてこと可能なんでしょうか?だって1000円の原価がかかっている商品を顧客が500円で欲しいって言われて、それで売っていたら、500円の赤字じゃないですか。そんなんじゃあ商売が成り立たないですよね。でもこれをアマゾンはやっちゃうんですよね。それでこの500円の赤字って普通の経営者だったら、苦々しいマイナスなダメダメなんですが、これをポジティブな2つの宝物に変えてしまうわけです。一つは「顧客の満足」そしてもう一つは「この500円の赤字を埋めるための企業努力のエネルギー」です。まさに、ここがアマゾン・マジックです。

アマゾンはすごいテクノロジー企業でもあるわけですけど、注意してよく見ると、ソニーやアップル、あるいはGoogleフェイスブックのような新しい価値を生み出すような革新的な技術ではない。自分たちが顧客に価格を決めさせた結果、それで発生した赤字を埋めるためのバックグランドにそのテクノロジーの多くが使われているように思います。物流しかり、サーバー管理しかり。

普通のプライシングの考え方だと、「プライス=原価+販売管理費(営業・広告費)+利益」ですから、その前提で競合との兼ね合いを考えて、中に入れる数字を決めていく。期間按分もふくめいちばん数字の最適化に成功した企業が最大利益を出し、評価され、成長していく。これを経営上手といいますが、アマゾンの場合は競合の顔色をうかがう必要もないし。数字の最適化なんて考える必要もない。なぜって価格は顧客が喜ぶという一点で決めてからその他の数字を決めていくわけですから。

じゃあ、こういう顧客に価格決定権をゆだねるような企業はほかにないのかというと、そういう企業の代表が前述のwal-martであり、いわゆる日本でもたくさんあるディスカウントストアなわけですけど、アマゾンほど強烈にはできない。少なくとも利益を度外視したりしない。国内で家電量販店が登場したときは、その低価格に消費者は喜んだけど。けれどもそれは消費者が値段をきめていたわけでなく、メーカーから価格決定権を奪い、きちんと利益をのせた「従来の価格決定方程式」にのっとったものだった。だからいま店頭でアマゾンの値段と比較されると、利益が出ないと悩んでいる。

「顧客に価格を決めさせる」これを実現するためには、テクノロジーの活用だけではなく従来の価格決定方程式上で利益を得てきた既得権益を破壊していかなければならない。アマゾンの20年程度の歴史を振り返っても、米大手書店バーンズアンドノーブルとの戦いや電子書籍参入における著作権者や出版社との戦いなど、文字文化にとって良いのか悪いのかよくわからないような既得権益の破壊を行ってきた。なぜそんなことを、問答無用でできるのか。保守勢力から圧力がかかっても批判を受けても経営がゆるがないのか。それは消費者、つまり顧客が望む値段を実現するその一点を目指しているからだ。

そして、その戦いに次々と勝利してきたからこそいまの18兆円という企業価値が存在する。なぜ、既得権勢力に勝利できてきたのか。それは消費者を味方につけているからというより、ネットの力学をうまく利用しているからだ。ネットはあらゆる情報をフラットにする。もし情報に偏りがなくなれば企業だろうと個人だろうと力が均衡する。だとすれば最後は支持者が多いものが勝つ。消費者を味方につける(顧客に価格を決めさせる)ということはネット上では最高のマーケティングだからだ。

ジェフ・ベゾス氏は言う。「AWS(Amazon Web Service)を開始したときに圧倒的な低価格を目指した。なぜなら、iPhoneの二の舞になりたくなかった。iPhoneは利益を出すために高い値段をつけた。そして売れたから利益も出た。けれども同時に多くの競合も市場に引き連れてきた。そしていずれアップルは儲からなくなるだろう。私は違う。顧客の望む価値だけを追求し、そして最後に儲ける。それがアマゾンだ。」


アマゾンCEO ジェフ・ベゾス氏(50歳)

@ankeiy