プライバシー経済を理解するために(雑文) その1

最近ではGPSを利用し居場所を特定するアプリ「カレログ」が問題になったり、Googleストリートビューが本来見せたくないものを表示してしまうことが議論になったり、やはりプライバシー(個人情報)について人は過敏になるものです。
日本でも2005年に個人情報保護法が施行されて、個人も企業もますますその取り扱いに神経質になっています。たとえば、個人情報保護法に合わせて制定されたプライバシーマーク制度のもとでは、面接の際に、面談者は相手の出身地を聞くこともNGとされています。(信じられない!)しかし、そのくらい個人情報は社会の中で重要なものとして取り扱われているのです。


いくら法律を作って守っても、ネット社会が進み、ネット上に存在する個人情報が増えれば増えるほど、逆にこの個人情報が外部に流出する、あるいは悪用される可能性も高くなります。もっとも、個人情報保護法のもとでは、企業がそうしたデータを収集する場合、本人がオプトイン(了承)することが前提になっており、本人の要望での修正や削除が担保されているということになっていますので、収集されたデータが問題なく管理されれば、私たちは普段、その問題にあまり神経質になる必要はありません。


個人情報がハッキングにより流出するとか、企業のインサイダーにより外部に持ち出されるとか、こういった犯罪行為は今後も発生するでしょうが、個人から見たらこれは情報社会を利用するための当たり前のリスクのようなもので(交通社会を利用する際の事故と同様に)、それを
あまり神経質に捕らえることはないでしょう。


ところが、ひとつだけ大きな問題があるとぼくは思っています。それは提供者が提供したデータがどのように活用されているかがまったく提供者側から理解できない、あるいは想像できないところにあります。もっというと、サービスが利用した本人が「自分はこの個人情報を提供した」認識がないままに個人情報が収集され、利用されてしまう点です。


ネット上には「フリー」という概念があります。クリス・アンダーソン氏がマーケティング的に
体系づけた書籍が日本でもベストセラーになりました。ネット上のサービスはフリー、つまり
「ただ」であることが重要であり、「ただ」からも企業はお金儲けができるのだという話でした。しかし、本当にネットユーザーはフリーでサービスを利用しているのでしょうか?ぼくは違うと思います。実は対価を払っているのです。通貨の代わりに「プライバシー」を払っているわけです。


みなさんはネットの検索サービスは無料だと信じて疑わないと思いますが、実は検索するキーワードを介して、あなたが何に興味を持っているかという情報を検索会社に提供しているわけです。「あなたが何に興味を持っているか」それはとても重要なプライバシーです。
よく街角でCM認知などのアンケート調査していますが、あのブランドを知っているとか興味あるとか答えるだけで、図書券1000円分くらいもらえます。つまりその場合、あなたの興味に1000円の価値があったということです。普通、街角のアンケートは1回きりだったり、どこの誰かを
特定しません。しかし、検索エンジンはあなたが誰なのか(ここでは名前まではわかりませんが)、そしてあなたの過去の興味も含めすべて特定しているわけです。
たぶん、検索会社に提供しているプライバシーは1000円より高いことは容易に想像がつきます。それをみなさんは「ただ」で検索会社に提供しているわけです。つまり検索サービスが無料なのではなく、実はみなさんがフリーなのです。


あるいは、みなさんが毎日利用しているSNS、これも当然無料と思っていますよね。それも大きな勘違いだと思います。実は大変なコストを負担していると思うのです。

それはみなさんの登録しているプロフィールです。どこに住んでいて、男なのか女なのか、今何歳か、何に興味があるのかとか、どこにいったかいうあれです。このプライバシーをもし企業が買うとしたら大変なコストがかかるのですが、それを実はみなさんは無料で提供しているわけです。

(もちろん、それを了承して使っているわけですから何ら問題はありません)


SNSの会社はそうしたプライバシー情報の登録を「みなさんとつながるフレンドのために必要な情報」あるいは「健全なコミュニティのために」というような建前で収集しているかもしれませんが、これらの情報を利用しなければ広告などの収益を得ることが難しく、のどから手がでるほど、詳しく提供して欲しい情報であることも理解しなければなりません。


検索会社は興味だけで、どこに住む誰なのかという情報までは持っていなかったのですが、SNS会社は誰なのかという情報を詳細に保有することになります。もし検索会社とSNS会社がくっついたら、スーパー個人情報を手にすることができるわけです。


ぼくは別にこうした個人情報を利用してビジネスを「悪だ」とはまったくは思っていません。消費者のためになる有益な広告やサービスを提供できればwin-winの関係になるからです。ただ、その場合少なくとも自分の個人情報がそうしたビジネス的な対価をもっており、サービスを無料で利用しているのではないという意識が利用者側にあるべきですし、サービス提供側はもっと積極的にその構造を開示していくべきだと思っています。

その2へ続く。