松竹梅

見栄をはるっていやですよね。ぼくなんかしょっちゅう見栄をはってしまって後でひとりでいやーな気持ちになっていますよ。


そんなぼくの父親もすごい見栄っ張りです。買い物にいくとお金もないのに、いつも一番高いものを買ってしまって母親に怒られていました。


その特性を利用して、ぼくはなるべく父親と買い物にいくことにしていました。いまでも鮮明に記憶しているのは、そのころすごく流行っていた5段変則の自転車を買ってもらったときのこと。もくろみどおり、お店の中で一番高いのを選んでくれました。けれども、母親には値段を内緒にしときました。男の約束ってやつですね。


人間は見栄をはる動物です。この見栄をうまく利用したマーケティングというのが古くから行われていました。その代表的な手法が、昔、先輩にそば屋で教わった「松竹梅理論」。値段を3段階にすると、たいがいの人が「見栄もはりたいし、さりとて値段も気になる」ってことで真ん中を選ぶっていう話です。だから竹の値段がお店の一番売りたい価格で、松と梅はおまけみたいなもの。でも時々超見栄ぱりがきて、松も買ってくれるのだから、ありがたい限りです。


ところがですよ。奥さん。今日お昼に入ったうなぎ屋さんは、値段のつけ方が変なんですよ。梅が一番高くて、竹が真ん中、松が一番安いんです。普通と逆ですよね。うな重が出来上がるまで、骨せんべいを食べながら、朝日山を飲みながら、ぼくはすごく不思議に思ったんです。


それで帰りにおかみさんに聞いてみたら、すごく合点のいく話だったんですよ。何だと思います?


このお店の本店は昔四谷三丁目にあったそうなんですが、そのときから「松竹梅」ではなくて「梅竹松」の順番だったたそうです。なぜか。それは出前客のためなんですね。


電話で出前を頼むときに、「梅ください」とは言いづらいが、、「松ください」っていうと逆に見栄もはれるってわけなんです。

今ならケータイでどこからでも頼めますが、昔の黒電話は茶の間に多くありましたからね。出前を頼むときにお客さんに聞かれちゃうってことを想定していたわけです。

このお店の主人はすごく切れ者だと思いますよ。なんたって人間の見栄を逆手にとってさらに見栄をはらせるわけですから。商売ってのは奥深いですね。